皆さまこんにちは。ビタミンCのお話は今回で最後になりますが、本日はビタミンCによる医療分野への期待というお話を少しだけしたいと思います。糖尿病発症や合併症の予防、高血圧予防、動脈硬化症の予防などへの期待があるということは以前の記事でも記載いたしました。ビタミンCは抗酸化物質であるため、活性酸素への対抗と考えるならば本当に期待したいところです。
糖尿病の高血糖はとても酸化ストレスの強い状態です。現在も研究途上ですが糖尿病患者が還元型ビタミンCの摂取量を増やすことにより恩恵を受けることができるという研究結果も出ていました。またフリーラジカルは合併症の原因になるため、ビタミンCを補給することで血圧を下げたり動脈硬化を減らすことにより合併症や心臓病のリスク因子の進行を遅らせたりすることに期待できます。さらに、ビタミンCはブドウ糖(グルコース)と化学構造が似ているため、ビタミンCが細胞に入る時ブドウ糖と競合することが研究で明らかになっています。ビタミンCには腸管におけるブドウ糖吸収を抑制すると言われていて、インスリンとよく似た血糖値コントロール作用があると言われています。
ビタミンCの話|私たちに不可欠な栄養素 – ピューレの森 (puree-nomori.com)
そして今回は慢性腎臓病を患う高齢者の現状による栄養状態の懸念から、昨年2021年9月に掲載されたこちらの研究結果もご紹介したいと思います。
なぜ高齢の慢性腎臓病患者は血中ビタミンC濃度が低い?
慢性腎臓病を患う高齢者の栄養改善や治療にも大きく貢献するものと期待されるとして研究成果を発表されているのですが、血液透析患者でも貧血、衰弱、歯肉出血を含むほとんどの壊血病症状はしばしば起こります(以下抜粋、詳細はリンクを御覧下さい)。
背景と目的は「世界中で透析患者の低い血漿アスコルビン酸濃度が報告されている、日本の透析患者も血中ビタミンC濃度が低いのかは、よくわかっていなかったため調査を行った」ということです。
※アスコルビン酸=ビタミンC
結果
✓透析患者の透析前血漿アスコルビン酸濃度は、CKDステージG3-G5患者よりも有意に低かった
✓透析によりさらに低下することがわかった
✓透析前のアスコルビン酸濃度は、血漿カリウム濃度と有意に相関した
考察
✓透析患者は、アスコルビン酸欠乏症である壊血病の発症を防ぐためにもアスコルビン酸を十分に摂取する必要がある
✓アスコルビン酸塩は、血液透析患者における生命予後および老化と因果関係がある可能性がある
まとめ
アスコルビン酸欠乏症や血液透析による老化の進行を防ぐために、血液透析患者は、体がアスコルビン酸を合成することができないため、サプリメントや薬から十分なアスコルビン酸を摂取する必要があります。
以上、箇条書きに概要のみ抜粋しております。他にもシュウ酸塩とビタミンCの関連性について前向き症例の結果や注釈も詳細に掲載して下さっておりますのでこちらの抜粋だけでなく詳細もご覧いただけたらと思います。
<プレスリリース>「高齢の慢性腎臓病患者は血中ビタミンC濃度が低く、血液透析によりビタミンCが減少する」https://www.tmghig.jp/research/release/2021/1020.html
本研究成果は、2021年9月28日にLifeの電子版に掲載されました。
ライフ|無料のフルテキスト|血液透析を受けている患者における血漿アスコルビン酸塩の減少およびデヒドロアスコルビン酸レベルの割合の増加|ティッカーhttps://www.mdpi.com/2075-1729/11/10/1023/htm
こちらの研究成果でもお話されている通り、血中ビタミンC濃度が末期腎臓病患者に低いのは、高カリウム血症を防ぐために食事、特にカリウム豊富な果物や野菜を制限せざるを得ないことが背景にあることを言及しております。
現代の臨床栄養学での落とし穴|カリウム制限の徹底力
病院給食では特別治療食加算にあたる食種は栄養価の数字を徹底的にコントロールします。カリウム値が1500mg以下に抑えるよう指示があれば一日当たりで毎日抑えます。とにかく一日ごとに数字を厳重に制限し、1mgでもオーバーしたらアウトです。病院で働いていた時はこれがこの業界の常識でした。
でも以前記事に書いたように腎臓を患っている患者さんは便秘の方が多いのですが、カリウム値を抑えるためには野菜を一日200g程度、果物は缶詰で一日50g程度が現実です。カリウムというミネラルはどのような食材にも含まれていて野菜や果物以外にも米や小麦、肉、魚などどんなものにでも含まれています。腎疾患の献立作成の手順は以前の記事でもご紹介しましたが、タンパク質コントロールとエネルギーコントロールを軸に調整を開始しますのでその時点である程度カリウム値も比例して調整されます。高タンパク質食ならカリウム値も上がり、低タンパク質食ならカリウム値も自然と下がります。しかしそれでも1500mg以下まで下がらない場合は野菜や果物、芋類、海藻類などの使用量を減らしていきます。
今回ご紹介した研究結果はビタミンCについてでしたが、これではビタミンCだけでなく食物繊維もその他のビタミンやミネラルも不足します。また献立作成には直接関係しませんが酵素も摂取できません。当然のこととはいえ集団での提供となるとこういったことが優先順位から外されていきます。
酒は飲んでも飲まれるな|三者三様の飲み方で何かがわかるかも? – ピューレの森 (puree-nomori.com)
その疾病の部分的なところだけ切り取って診るということに落とし穴があると思っています。今は診療も細分化されてその科目ごとにエキスパートの方たちが対応します。でも身体は繋がっていて、人体と栄養の機能もそんなに単純ではありません。もっと栄養の観点から、分業で見るのではなく全体を見た上でカリウム制限はどのようにすべきかを考えることが大事だと思います。
大量調理になればなるほど個別対応が難しくなりますし栄養強化する分だけ比例して食事代にかける費用も上がります。集団対応でできることと出来ないことはありますが、身体は繋がっていること、栄養素も様々な機能が思いもよらないところで繋がっていて効果を発揮していることにもっと気づいて頂きたいと思っています。酵素だって、測ることができないから数値化できませんが生野菜NG、生果物NGなんて言ったら全力で対応しますので、結果的に酵素を補給する手段はほぼなくなります。
しかし以前ご紹介したホームページを拝見してやっぱり間違いではなかったと勇気づけられた時のように、酵素を意識して摂り入れると改善に期待が出来ると研究を重ねることで見えてきた事実もあります。
よくわかる慢性腎臓病(CKD)ガイド 予防・早期発見・合併症防止のためにできること知って欲しい、慢性腎臓病(CKD)の原因・症状・予防方法
慢性腎臓病との付き合い方~腎臓に良い成分を摂る~ (wellunderstood-ckd.com)
今はエネルギーコントロール、タンパク質コントロール、脂質コントロール、塩分コントロールが中心の臨床栄養学ですが、そこにビタミンやミネラルの重要性が加わるともっと疾病の改善が見えてくるのではないでしょうか。
少なくともカリウム制限1500mgがどんな食事内容になるのか、どんな見た目になるかを知って頂けるだけでも嬉しく思います。
院内約束食事箋はあくまでも厚労省の食事摂取基準と各種疾病ガイドラインをベースに設定しますのでそう簡単にはいかないものと思いますが、せめて個人宅で在宅療養されている方にはそういったことを考慮しながら考えられるといいなぁと強く思います。
まとめ|現代はビタミンC不足に陥っている
ビタミンCは食事からの摂取量が昔に比べて減少傾向にある一方で、消費量はストレスや紫外線、電磁波などにより要因が増えています。日本人はビタミンCの不足はないと以前は言われていましたが、偏った食生活やインスタント食品ばかりの食生活の方の中には壊血病患者が現代でも実際にいらっしゃいます。
そして、繰り返しになりますがカリウム制限中の腎疾患の患者さんや血液透析患者さんは慢性的なビタミンC不足に陥っているという事実が明らかになっているということです。
今回ご紹介した研究結果のまとめでは「サプリメントや薬から十分なアスコルビン酸を摂取する必要があります。」としておりますがビタミンCを新鮮な野菜や果物から十分に摂取することでその他のビタミンやミネラルも一緒に摂取できるようになりますのでもう少し栄養素の補酵素や補因子的な役割もフォーカスして欲しいと思うところです。
食事による身体への影響は直ぐには現れません。薬と違って即効性がないため、病院の在院日数を減らす傾向にある現代では病院食による効果は誰も期待していないのでしょう。しかし病院食は「治療の一環」と定義されておりますのでもう少しビタミンやミネラルといった、なくてはならない栄養素にも強化できるような食材費予算を頂けるようになると嬉しく思います。
皆さんの皮膚感覚でもわかる通り、サプリメントの種類を増やせば増やすほど購入額も比例して高くなるように、給食の食材費予算を抑えられれば最低限の栄養価構成になりますし、充分頂ければそれだけビタミンやミネラルも充足に近づけることができます。病院に限らず高齢者施設や障害者施設などの福祉施設も同様です。
また個人宅でも同じことが言えます。あまり食材費にお金をかけたくないと思えば最低限の食事になってしまいますが未来の身体への投資と思えば野菜や果物もしっかりと摂取して治療代にお金をかけるよりもよっぽどいいのではと思います。もう少し、栄養教育という小学校の家庭科で少し勉強する程度でなく広く知って頂けるような世の中になると嬉しいです。
本日も最後までお付き合い下さいまして、有難う御座いました。