ミキサー食ってなに?|高齢者施設での食事形態は施設によって微妙に違う

ミキサー食ってなに?|高齢者施設での食事形態は施設によって微妙に違う

皆さまこんにちは。これまで衛生に関することを中心に記事にしてきましたが、本日からは違うテーマのお話もしていきたいと思います。
このブログ名にも繋がっていくお話になるのですが、今回は高齢者施設での食事の形態について簡単にご紹介したいと思います。

身内や親戚の方などが入所されていたり、施設でパートやアルバイトとして働く方も大勢いらっしゃいますのでご存知の方も多いかもしれませんが、今まで関わったことのない方に伝わりやすくまとめたいと思い、ちょうどこれから知りたいという方がいらっしゃれば少しでも参考になると嬉しく思います。

Chipmunk Rodent Foraging Eating  - meganzopf / Pixabay
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目次

高齢者施設での食事形態の傾向

高齢者施設での食事の一番の特徴は、病気に対応した食事というよりも、食べやすさ(形態)に分けていることが中心となります。その上で減塩食や糖尿病、腎臓病などの病気に配慮した食事という対応が加わり、さらには苦手なものやアレルギーがあれば変更するといった対応をします。

普段皆さんと同じように食べられる方の食事を”普通食”や”形”という表現をし、ノーマルな食事として提供します。
これをベースに”一口大” ”粗刻み” ”刻み” ”極刻み” ”ミキサー”と合計6段階に分けて、出来上がった料理を刻んで食べやすくします。
後述しますが6段階よりも少なかったり多かったりと、考え方により形態の分け方は施設によって異なりますのでこちらではあくまでもほんの一例として参考程度にしていただけると嬉しいです。

刻みというのはみじん切り状をイメージして頂けるとわかりやすいと思うのですが、バラバラになっていて食べにくい、気管に入ってむせやすいなどの危険が伴いますのでそこに”とろみ剤”という専用の粉でまとめます。よく中華料理にあるあんかけのとろみのイメージです。

どのくらいの人がどの形態で食べているの?

普段皆さんがご家庭で召し上がるような一般的な食事は1割から2割弱、
食べやすいようにスプーンに乗るくらいの大きさにカットして提供する方も1割から2割弱、
刻みが全体で6割、そしておよそ1割がミキサー食を召し上がる傾向にあります。
まとめると、普通に食べられる形や一口大の方が全体の3割、7割が刻みまたはミキサーです。

これは統計があるわけではありません。私が個人的に感じていたことで、給食会社ならではの、契約先の多くの施設を知ることができるためそれで肌感覚でそう感じておりました。
(特養や老健、介護付有料老人ホームでの傾向ですので、サ高住や高専賃などは含みません)

加齢に伴い歯の状態が悪化すると噛みにくい人のために配慮した形態の食事を提供する必要性があります。しかし他にも衰えてくる機能があるのです。それが”飲み込む力”の問題です。
”嚥下”という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「えんげ」と読みます。食べ物を口に入れるところから飲み込むまでの一連の動作を”摂食嚥下”と言います。
一言で言うと噛む力や飲み込む力が弱くなっている方に刻み食を提供します。

全体的に、離乳食の逆パターンと思ってもらえるとイメージしやすいかもしれません。
赤ちゃんははじめ、スプーン一匙の10倍がゆや野菜ペーストなどから始まりますよね。
そこから少しずつ少しずつ量や種類を増やしながらとろとろ状、柔らかくしたもの、最終的には大人の食事に近いものを食べられるように約一年かけて段階を踏んでいます。

ミキサー食ってなに?

流動食と言えばイメージしやすいでしょうか。そこにとろみ剤を入れてとろっとした状態にします。
牛乳ならヨーグルトに変更するか、施設によっては牛乳にとろみをつける施設もあります。
味噌汁なら具なしの汁にとろみをつけるか、具をミキサーにかけて汁と混ぜる施設もあります。野菜の栄養が入っている方が良いと思われるかもしれませんがこの場合は野菜の具によってはくすんだ緑色の汁になるため、見慣れない方は抵抗があるかもしれません。

お粥も、重湯だけでは摂取エネルギーが足りないため全粥をミキサーにかけておかゆ専用の粉で食べやすくします。

お浸しも煮物も焼き魚も、天ぷらまでミキサーにかけます。漬物の代わりに練り梅や海苔の佃煮に変更する施設もありますが、なんと漬物をミキサーにかける施設もありました。

また高齢者施設では3時のおやつが提供されますが施設によってはゼリーまたはババロア中心、一方どら焼きやバームクーヘンをミキサーにかける施設もあります。

この提供方法の違いは何でしょう。簡単に言うと施設の方針や設備環境、予算の問題などによります。
✓味のバリエーションを減らさないため。食べる方への楽しみを減らしたくない
✓原価(予算)の問題
✓作業時間の問題(人手、労務費、衛生)
✓設備の問題

写真でなく文章だけであえて記載しましたが、ここまで聞いて皆さんはどのように想像されるでしょうか。私は初めて老健の現場で働いた時、衝撃的でした。栄養士のため基礎知識は持ち合わせていたつもりでしたがそれでも初めて見た時は言葉に表現しにくいのですが、ショックだったのです。自分がいつかこの食事になるかもしれないということにイメージを膨らませられずにいました。

口から食べられなくなるとどうするの?

このように形態に工夫を施していますが、それでも食べられなくなる方もいます。
そうなると、”胃瘻”(いろう)と言って、胃に穴を空けて直接栄養剤を入れます。ジョイントを外部と胃の内部に装着し、チューブで栄養剤を流す仕組みになっています。
または”鼻腔栄養”といって鼻から胃までチューブを入れ、その管から栄養剤を注入して胃や腸に入れる方法もあります。
これらを”経管栄養”と言います。

経管栄養に対して”経静脈栄養”と言っていわゆる点滴で栄養を送る場合もあります。
”末梢静脈栄養”がいわゆる点滴、”中心静脈栄養”は鎖骨下などの中心静脈にチューブを入れ、そこから栄養剤を入れる仕組みです。 

現在は低栄養の高齢者が問題視されています。
食べすぎよりも食べなさすぎで痩せ細り、徐々に状態が悪くなってしまうのです。
そうならないために日頃から意識をした生活を送ることが大切ですが、私はまずその前の段階の、「知ること」から始まることが何よりも大切かと思っています。

新たな形態の導入”ソフト食”

新たなと言っても何年も経ちますが、長年の主流であった刻み食に代わって”ソフト食”という形態も出ています。ミキサーでペースト状にしたものを専用の粉で固めたのがソフト食です。
ミキサー食は流動性ですがソフト食はムース状やテリーヌ状のものをスプーンにすくって食べるイメージで、刻み食の課題であった誤嚥しやすい、危ない、見た目が悪いということを一気に解決してくれる画期的な形態なのです。

刻み食のデメリットを解決してくれるなら全ての施設でソフト食に変えたらいいと思いますよね。
ですがソフト食は工程が増えるため、現在の作業時間や作業人数、設備の問題が解決されないと導入はなかなか難しいのです。
よって、施設によりソフト食を導入している施設と未導入の施設、手作りは出来ないけど既製品のソフト食を利用するなど、提供に違いがあるという訳です。

他にもある”軟菜食”

軟菜食って、やわらかい食事?ソフト食と同じじゃないの?と思う方もいるかもしれません。
これこそが施設ごとの概念の違いで、「軟菜食=硬い食材を使用しないで作った料理」とする施設もあれば、専用の酵素などで素材そのものをやわらかく加工して提供する施設もあるのです。見た目は普通食と変わらないことがメリットですが、普通食と軟菜食を分けて用意します。

高齢者施設の場合は基本全体的にやわらかく調理されます。ご飯もやわらかめに炊きますが、料理構成においてはレンコンやごぼうなど硬い食材を柔らかく煮て調理するものの、それでも歯や飲み込みの問題で食べられないという方もいます。バリエーションは減りますがそういった食材を使用しないで作られた料理を軟菜食として用意する施設もあるということです。
そしてそれをソフト食と呼ぶ施設も中にはあるため、混乱しやすくなりました。

補足ですが一方病院では、軟菜食は一般的にどの病院でもあります。硬い食材を使用しない料理です。ほとんどがそれを「全粥食」としています。一般食が米飯で揚げ物や根菜類が出る食種に対し、全粥食は揚げ物も根菜類も出ず、ほぼ軟菜食と同じと言ってもいいイメージです。
その他にも病院の場合は胃や腸など消化機能に疾病がある方向けに”易消化食”という食種もあります(呼び方は「いしょうかしょく」「えきしょうかしょく」どちらでも正解です)。硬い食材を避けるだけでなく、繊維の残りやすい食材や胃腸に刺激を与えるような香辛料は使いません。油脂が多い食材も使いません。このように軟菜食と易消化食は似ていますが異なります。
他にも”低残渣食”という食種もあるのですが、だんだんごちゃごちゃしてきましたので病院での例はここまでにします。
高齢者施設の場合は普通食に対して軟菜食を用意している施設も増えており、噛む力の弱い方向けに刻むのではなく硬い食材を避けやわらかく加工した食事を提供する施設もあるということです。

食事形態のまとめ

長年、上記に説明した円グラフの状態が主流でしたがそこに新しい形態も加わって導入している施設もあるというお話でした。
噛みやすさ、飲み込みやすさの指標となるものがあるのですが国で統一されているわけではありません。
誤解のないようにお伝えしますと、農林水産省からも分類は出ていますが学会、協議会それぞれが先立って出している指標の方が主流となっていて、食形態の名称や、名称とその内容(分け方の種類、刻み形態の大きさ、とろみの濃度など)は学会の分類をベースにして施設ごとに取り決めているということです。

そのため名称や形態の特徴が少しずつ異なっています。委託会社あるあるですが、異動で他の施設へ行くと共通言語が異なり混乱する時もありました。表にまとめるとこのようになります。

とろみ付き飲料の自動販売機

ここまで食形態についてお話しましたが、その際、細かく刻んだ料理やミキサー食にとろみをつけると軽く触れました。そして飲み物にも誤嚥防止のためにとろみをつけます。
今回は軽くご紹介する程度にしますが、最近このようなものがあることを知りました。
今年の6月末に北海道に行ったことを別の記事で触れましたが、道央自動車道のサービスエリアで珍しいものを見かけました。
コーヒーを買おうと、その場で豆を挽いてドリップしてくれるというサービスエリアで必ず見かける自動販売機のところに行ったのです。よく見たら「とろみ付き飲料が選べます!」と書いてありました。

サービスエリアにお馴染みの株式会社アペックスの自販機でした。飲み物は一般的なコーヒーやココア、抹茶ラテなどのホットかアイスが選べます。
最近はコロナ禍ということもあり遠出しなくなりましたが久しぶりに高速に乗ったためなのか私が知らなかっただけなのか、進化していて驚きました。

とろみ無しでもとろみ付きでも選べるようになっていて左下に3段階のとろみの濃度を表す紹介がありました。さすがにとろみ無しで購入したのですが便利な時代になったなぁと思わず感心してしまいました。

私は小さな頃から誤嚥しやすい

私の話を少しだけさせていただきます。
小学生の時(4~6年生頃だったかと思います)に、ある日家で麦茶を飲んだ時に誤嚥しました。
その時はたまたま誰も家にいなくて、立ったまま飲んだのですがダイニングテーブルのイスにしがみついて必死にせき込みました。
あの苦しかった一瞬のことが忘れられず、その時のガラスコップの柄も今でも覚えています。
その後は大きな事故もなかったのですがずっと気になってはいました(ちょっとしたむせはちょこちょこあったと思いますが)。
そして、25歳の時にまたひどい誤嚥をしたのです。この時は自分の唾でした。
その時は仕事中で、老健にて朝食を出し終えた朝8時だったのですが、昼の準備のため厨房から事務所に戻った時のことで、パートさんたち2人ともフロアに上がっていたため周りには誰もいませんでした。
一人でしばらくせき込み苦しみ、息が出来ずにどうなるかと怖かったです。
今思えば一瞬の出来事だったかもしれませんが、私には長く感じました。
その後もこういったことが数える程度ですが数回あり、また誤嚥したらどうしようとふと怖くなることがあります。

こういったこともあってミキサー食は私にとっても身近な、大切な食事の形態と認識していました。
でも現実的には見た目はすべてがペースト状で色も茶色や緑色が多く、美味しそうと思えるものではありませんでした。
しかも私は子供の頃からどろっとしたものが苦手だったのです。シェイク、飲むヨーグルト、ココア、スムージーという類のものが好きではなく誤嚥しやすい私には死活問題です。
なるべくならミキサー食にならないように、歳を取っても問題なく食べられていたいものです。

今できることを

現実的には1割と言えどもそれを必要としている方がいます。
重度の心身障害者施設へ行けば、9割がそのような方々です。
実際にミキサー食を必要とする方は施設に入所したり病院に入院する方がほとんどかと思いますので、在宅ではそこまで必要とする方はあまりいないでしょう。
しかし、ゼロではないのなら在宅でも必要とする方や介護される方が少しでも楽になるように、少しでも知って頂けるようなきっかけづくりをしたいと思っています。

まだ開始したばかりのため、ご報告できるところまで来たらその時はこの場を借りてお伝えしたいと思っています。そのための活動が今月よりスタートできたこと、もしかしたら近いうちにさらに一歩進めるかもしれないこと、個人的にはとても楽しみにしています。
長い道のりでそう上手くいくとは思えず不安もたくさんありますが、必ず実現させたいと思っています。

日本では昔に比べてより健康で長生きできるようになりましたが、そうなると食べることへの衰えも身近になってきます。
あまり馴染みのない方にとってもきっかけになるといいなと思い、高齢者施設での食事形態のご紹介をしました。何となくでもイメージが伝わると嬉しく思います。
今後の活動の中で写真等もご用意できるようになると思いますのでその時は別途ご紹介していきたいと思います。