佐々木漬物の「こだわり」|乳酸発酵編②善と悪の共生

佐々木漬物の「こだわり」|乳酸発酵編②善と悪の共生

皆さまこんにちは。佐々木漬物の御主人が青年の頃に発表した資料から、御主人の原点を知ることができました。

農業と経営に真剣に向き合った時に気が付いた、「なんで米ぬかに埋まっている畑の野菜はいつまで経っても元気なんだろう?」という疑問から、ぬか漬けが人間の身体にも良いということを経験から知り、こだわりの発酵ぬか漬けを作るために独学で知識と技術を身に付けていきました。

現代では「健康的な生活を支える三原則は、快食、快眠、快便」と言われています。

本日も佐々木漬物の原点である、こだわりの製法「乳酸発酵」のお話をしたいと思います。

目次

完成した看板商品|無添加の「乳酸発酵白菜ぬか漬け」

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1951年、長崎県世知原町(せちばるちょう)(現:佐世保市)という山村で「青年活動」の中の「4Hクラブ」という青少年の研究グループが有り、農業改革・生活改善の中から日本の伝統食のぬか漬けに興味を持ち、現在に至る。

科学と研究が進みぬか漬けには発酵微生物が活発に活動している事が判明され、成人病予防に効果がある事が明らかに成ったので、食物繊維を多含している白菜に注目し、私の経験を活かし三年間かかりましたが乳酸発酵白菜を誕生させることに成功しました。

歴史ある製法、経験、技術を生かして開発しました。これを食する事により乳酸菌は腸に到達し、そこで活発に増殖し、そのため腐敗菌や異常発酵菌を抑える事が出来、また、食物繊維が多く含まれているため宿便・便秘を改善し、整腸作用と体温を上げる事で昔から健康維持食品として利用されて来ました。

今一度日本古来の漬物「おふくろの味」を思い出して見ましょう。肌のきれいな健康人は発酵漬物を毎日食べている事を証明されています(「食と日本人の知恵(岩波現代文庫 社会 52)著:小泉武夫」より引用)。

自己の健康管理に今一度食卓に。

佐々木漬物 店主 佐々木勝彦

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乳酸菌のキホン

人間の腸管にはおよそ1000種類以上、100兆個、重さでいうと1kgもの腸内細菌が存在すると言われています。これらの腸内細菌はお互いに影響を与えながら腸内フローラ(腸内細菌叢)を形成しています。

一番多いのが中間菌(日和見菌といって、善でも悪でもどちらでもない菌)、次に善玉菌、一番少ないのが悪玉菌で、この悪玉菌は少量であれば人の身体に悪さをすることはないと言われています。

中間菌7:善玉菌2:悪玉菌1の割合が理想です。

この中間菌は、悪玉菌が増えると悪玉菌の味方になり病気にかかりやすくなります。そのためバランスを保つために善玉菌を毎日補充することが大切です。

乳酸菌は、代謝により乳酸を産生する細菌類の総称です。通性嫌気性菌に分類され、酸素が存在していても生育できるため、人の腸内以外に牛乳や乳製品、漬物などの発酵食品や自然界に棲息しています。

胃酸で分解されてしまっても善玉菌のエサとなり、善玉菌を増やす効果があると言われています。また、生菌でなければ認められない効果もあります。

一方、乳酸菌は”死菌”でも人の身体に一定の効果があると最近の研究ではわかりつつあるそうです。

このようにとても奥が深い「乳酸菌」。今でも研究が続けられていて、ある大学の研究者たちが辿り着いたのは長野県にある古民家から発見された「米ぬか」からでした。

「悪い菌が時間と共に進化するなら、対極に、良い菌の中にも時間をかけてさらに良い進化を遂げた菌がいるのでは」と希望をもって研究を続けている方々がいます。

その答えを探すために長年かけて育った乳酸菌を探し続けていたら、長野県のとある古民家に眠っていた米ぬかから発見できたというのです。

佐々木漬物の御主人が指南書としている著書には「この地球上には人類が考えもつかないような“超能力”をもった微生物が、まだまだ無数に存在していることが明らかになってきた。」と記されています。

漬物の発酵過程

あらためて、野菜が発酵するって一体どういうことなのでしょう。

空気中には様々な菌が浮遊しています。

それは人間の目線で勝手に善玉菌、悪玉菌(腐敗菌、病原菌、食中毒菌など言い方は様々…)などと区別をしているだけで、地球上には数百万とも言われる数えきれないほどの菌が存在しているのです。

O-157で知られる腸管出血性大腸菌やサルモネラ菌などの食中毒菌も、乳酸菌と同じ微生物です。

空気中に菌が浮遊しているわけですから野菜にも様々な菌が付着しています。それは人間に害のある菌も、有益な効果をくれる菌も、両方です。

ではなぜ漬物は乳酸菌が増えて腐敗菌や食中毒菌は増えずに安全に食べられるのでしょうか。

漬物になるための一番の大きな特徴は「塩」です。

簡単に説明すると、乳酸菌は”好塩菌”と言って塩が大好きです。

さらに塩によって雑菌や腐敗菌が繁殖しにくい状態になります。

そして発酵です。乳酸菌によって乳酸や酢酸がつくられると腐敗菌や悪玉菌の嫌いな”酸性環境”になります。

乳酸菌自体は酸に強いので、腐敗菌や悪玉菌を寄せ付けない環境を作れるというわけです。この入れ替わり現象は時間をかけて少しずつ変化していくそうです。

なぜ次亜塩素酸ナトリウムで野菜を消毒するの?

乳酸菌をはじめとする微生物菌のお話に触れましたが、私は業務上、食中毒防止のためにいわゆる「悪玉菌」の方ばかりを勉強する機会がとても多くありました。

合言葉として「75℃以上1分以上加熱」「生野菜・生果物は次亜塩素酸ナトリウム300倍溶液で消毒」と毎朝、朝礼で唱和していました。

”次亜塩素酸ナトリウム”という消毒液を聞いたことがあるでしょうか。

「大量調理施設衛生管理マニュアル」では非加熱で提供する食材はいわゆる塩素系キッチンブリーチでの消毒が法律で義務付けられています。

これは身近なご家庭でも食品添加物殺菌料として布巾や茶渋などの漂白の他、赤ちゃんの哺乳瓶や生食する野菜や果物の消毒で用いられています。

そのため、漬物をはじめ市販品の野菜加工商品は、「野菜は次亜塩素酸ナトリウムで消毒してあるのが当たり前」と思っていました。

昔は食中毒と言えば肉や魚が原因で発生するものが多くありました。

しかし現在は野菜でも食中毒が発生します。牛糞や鶏糞などが肥料として作られる過程で正しく発酵されずに病原菌が残ってしまったまま、肥料として使われてしまうことにあります。

実際に”白菜の浅漬け”や屋台の”冷やしきゅうり”、高齢者施設での”きゅうりのゆかり和え”など野菜料理による食中毒事故が起きています。

このように野菜には食中毒の原因菌が付着している場合があるのですが、次亜塩素酸ナトリウムにより死滅させることが出来るため加工前に消毒をします。

いぶりがっこ、絶滅の危機!?

“秋田名産「いぶりがっこ」ピンチ、農家4割「続けられない」…作業場改修に100万円

存続の危機に立たされた“ふるさとの味”秋田「いぶりがっこ」 | NHK | WEB特集

いぶした大根を漬けた秋田名産「いぶりがっこ」が、ピンチに陥っているーーー

きっかけは2021年6月に施行された、漬物販売に保健所の許可が必要になる改正食品衛生法。秋田では農作業小屋や台所で製造する農家が多く、許可を得るには作業場などを改修しなければならないためだ。「漬物作りをやめる人が増えるのでは」と生産農家らに動揺が広がっている。

改正法のうちの一つ、【営業許可制度の見直し、営業届出制度の創設】により農家への改善が求められていることになります。これまでは「漬物製造業」を行う農家は「営業報告」で良かったのですがこの改正によって正式に「営業許可」が必要になったのです。

このきっかけも、先ほど少し触れた2012年の北海道で発生した”白菜の浅漬”による食中毒事故です。腸管出血性大腸菌O-157による160名もの大規模な集団食中毒が発生し8名が残念ながら亡くなられました。

この事件を受けて、厚生労働省は「漬物の衛生規範」の改正などを2018年に公布しました。「営業許可制度の見直し」については、2024年5月31日までの猶予期間となります。

発酵漬物は冷蔵庫が無かった時代、保存食として食され長い歴史がある

発酵の自然の力により悪玉菌が死滅し善玉菌が残り、保存食として受け継がれてきました。

その作用は人間の身体にもよい効果をもたらしてくれます。

京都発祥のしば漬けや長野を代表とする野沢菜、秋田名物のいぶりがっこなど、お国自慢ともいえる漬物が全国各地に存在します。

そしてぬか漬けですが、ぬか漬けには様々な説があります。

中でもぬか漬け発祥の地として、現代のようなぬか床に米ぬかを使ったぬか漬けが誕生した地域は北九州だとされています。

北九州小倉城藩主である細川忠興がぬか漬けを食べ、それを城下の庶民にも伝えたため広まっていきました。福岡県北九州市の小倉城近くにある八坂神社では日本で最も古いとされるぬか床が保存されています。

その歴史は約400年とも言われており、現在もなお毎日きちんと手入れをされています。

痛ましい食中毒事故というのは、消毒が不十分で悪玉菌を殺菌することができなかったために発生し、また、発酵による酸性環境にすることが出来なかったために菌の「入れ替わり現象」が出来なかったものと考えられ、病原菌が付着したままお客様の元へ届いてしまったというわけです。

さいごに|アンパンマンも「共生」の世界

皆さまご存知の「アンパンマン」。作者のやなせたかしさんはこのように話しています。

「この世は善と悪、光と陰でできています。人の心にも善と悪の心があって、そのバランスがとても大事です。アンパンマンが成功したのはばいきんまんの功績が大きい。自分で言うのもなんだが、ばいきんまんは世界的傑作だと思う。」

バイキンは食品の敵であるけれど、アンパンをつくるパンだって菌がないと作れない。助けられている面もあるのです。

善と悪はいつだって、戦いながら共生しているということです。

「絶望の隣は希望です!」やなせたかし著

われわれ人間にも言える。バイキンが絶滅すればいいかというと、実はダメなのだ。人間も生きられなくなる。人の体内にはおびただしい数のバイキンが生きている。健康な人は、バイキンと戦いながら、両方が拮抗して、ある種のバランスを保って生きている。

一度戦った細菌やウイルスに対して免疫ができる場合もある。だが、これで安心かというとそうではなく、次から次へと新型ウイルスが出現し、人は永遠にそれらとたたかっていくことになる。

「明日をひらく言葉」PHP研究所編 やなせたかし

病原菌を摂取することにより腹痛、下痢、嘔吐、発熱のような症状をはじめ、死に至ることもあります。

乳酸発酵の力を知れば悪玉菌が消滅し善玉菌が残る。生産者も管理者も、日本古来の食文化の本質を学び直すことができれば、いぶりがっこや白菜の浅漬けは安全に美味しく食べられるのではないでしょうか。