佐々木漬物の「原点」|発表「養鶏を主体とした私の経営改善」編_全文

佐々木漬物の「原点」|発表「養鶏を主体とした私の経営改善」編_全文

私の部落は長崎県でも最北端の佐賀県と界した処の世知原町の中間部にあり、山間部の急傾斜地帯でありますが、昭和22年と昭和33年に炭鉱用開発事業が起工され、このため全耕地の3分の1を買収されたのであります。其の后、昭和34年の地区の実態調査の結果、一戸平均耕作面積は60アール前后という零細農家が多く、このため農業圣済はきわめて貧困な状態をしているのが実情であります。

生活苦境から生まれた兼業農家が年々増加していることも私共の部落の特徴であります。又今后の農村を背負うべき若き青少年さえも農村を後に離れていくのであります。私はこの問題の打開こそ若き我等在村青少年に課せられた今后の大きな課題であると考えます。

そこで逼迫する経営の打開こそ農業の近代化と共に急を要する事だと思い、私は農業の実態をつぶさに考えてみますと、なんと不合理な経営型態であり、又現金収入が少ない上に、労仂のはげしいことは若い私でさえも深く痛感させられました。何故もっと楽しい豊かな農業圣営が営まれないものかと考えた末、合理的な経営を行なうためにはまず有利性のある種類の選択であると思い普及員さん等諸先生の御指導を頂き、私は昭和29年より32年の4年間農業所得の推移を調査いたしました。

1表説明(農業所得推移)

〇主要作物の生産面においては不合理な点がみられ、生産費が髙い割に収入が少なく畜産(養鶏)においては、労仂力の平均化現金収入、地力培養等において合理化され、経営全般において収入の増加がはかれる。

〇立地条件や経営条件から検討いたしてみますと私の圣営に最も適合した部門として養鶏を選定し取り組んだのであります。
私の圣営概況は第2表の通りであります。

2表(経営概況)

3表説明(鶏の導入計画と実施)

〇私はまず昭和33年度より初生ビナ雄を購入し育雛の研究に重点を置き、その后技術の研究と圣験を積むにしたがって随時羽数を増加していきました。

〇現在の育雛器は箱型をを使用しておりますが100羽の育雛が限界でありますので今後は多数羽飼育用の5段バタリー式の育雛器を購入する計画であります。

育成費(第3表説明)

〇育成飼料の問題ですが、ここで自給飼料を重点とするか、購入飼料を重点にするかについて考慮してみましたが、育成期間中は充分栄養を与え発育の障害をなくす意味から栄養豊富に購入飼料を重点配合いたしました。

〇設備費はバタリーで1羽当り60円で6年間消却を予定いたしております。

4表(自給飼料の栽培と給与量)

私は魚のアラを魚粉代用として与えております関係上、青菜の給与には特に注意を払っております。それは肝臓肥大の防止とニワトリの健康を維持するためであります。このため普通畑、水田裏作、水田の畑地転換等を取り入れ栽培いたしております。結果は第7表で説明致します。

〇春より夏にかけてはバレイショを全体の25%、秋から冬にかけては甘藷を全体の25%を与え、購入飼料の節約につとめております。

〇今后は尚一層、馬鈴薯、甘藷の増収に努め多大な生産力を要する麦作に変る馬鈴薯の栽培面積を増加していき、サイロの設置を行うと共に自給飼料の増産を計画いたしております。

5表説明(鶏が主要作物に及した影響)

〇鶏より排出される鶏糞の利用により化学肥料の節約ができ、米麦をはじめ、主要作物など経営全般においては収量の増加をはかることができました。

〇今后は尚一層増収技術の研究に励み米作にて10アール当り4石を目標に、又馬鈴薯、甘藷等においては自給飼料を目標にし鶏糞利用により地力培養と共に生産費を引下げ増産に励みたいと思っております。

6表説明(月別にみた各部門の労仂配分)

〇昭和33年度の農閑期においては労仂の利用度は低く、又年間の労仂力配分が改善されておりませんでしたが、昭和36年度においては農閑期においても労力の利用度が髙く、したがって年間の労仂水準も高くなってまいりましたが農繁期においては過労という大きな山を作りました。しかしここには養鶏による換金にて労仂力の導入をはかり、労力の配分につとめております。

〇今后は早期栽培等を取り入れ農繁期の山を崩すことと経済が許すようになりますれば機械の導入を行ない農繁期の山を緩和しようと計画いたしております。

7表説明

〇昭和33年度までは米麦を中心とした経営で収入が少なかったのでありますが、年々鶏の飼養羽数の増加に伴い年間の農業所得も徐々に増加致してまいりました。又農産物に対しても肥料支出も鶏糞利用により節約出来ると共に、地力の培養等において経営全体の収益が増加し、平均した月収を得ることができるようになりました。

〇今後は飼養羽数の増加をはかり、尚一層農業所得の増加に努め安定した農業圣営を築くよう努力いたす覚悟であります。

8表説明(4ヶ年の労仂配分)
※表なし

〇年々鶏の飼養羽数の増加と共に労仂力も増加しておりますがまだまだ昭和36年度の年間の余暇が715時間自家労仂として残っておりますので今後は経営全体の中に有効に消化していきたいと思っております。
労仂力等において不合理な点が多数にみられますのでこの点も合理化し、1日の労仂生産性の向上に努力致そうと思っております。

反省

私はこうした体験を通じまして、経営の収益を髙めることは、経営における生産過程を把握し、高度の技術と細心の注意、愛育の精神など知的、情的要素を積むことによって、生産規模の拡大をはかることだということをこの体験から収得することができました。

又私がこうして養鶏を徐々に経営するにしたがって部落の人達の関心も髙まり、昭和32年度においては200羽前後の飼養羽数でありましたが、現在においては2500羽と増加してまいりましたので今后は共同販売体制を確立し、養鶏を尚一層拡大し、所得倍増の夢を実現すると共に鶏糞の燃料利用も現在計画致しております。

私達在村青年は、互に手を取り合って力強く生き、不況に落ち入っている私達の地域の農業経営の改善に努力し、如何なる時代においても安定した農業経営が営まれるよう、その基盤を作ることが新しい村造りの目的であると思います。

今後はますます研究に励み地域の農業の発展のために努力することを誓いまして私の発表を終ります。