佐々木漬物の「原点」|発表「改良カマドの築き方と性能比較調査について」編_全文

佐々木漬物の「原点」|発表「改良カマドの築き方と性能比較調査について」編_全文

私は佐々地区代表髙橋であります。只今から改良かまどの築き方と性能比較について研究発表を致します。

動機

楽しい明るい農村生活を築きあげるべく生活改善が強く叫ばれております。では農村の生活はどんなものでしょうか。食生活は勿論生活全般に於てその不合理性が残されております。圣済力に乏しい農村とは云え毎日ゝ使用され私達の生命を維持し仂くためのエネルギー源の生産の場であります台所カマドにしましても昔の薄暗い場所、不圣済で健康的でないものが多く使用されているのが実態のようです。何故早く改善されたのでしょうか。又私は冬期間の殆どを炊事その他に使用する薪取りに日を送り農作業に不便を表しておりました。生産力の向上に依り始めて生活の合理化も可能になることは明らかであります。然し私は薄暗いそして煙む所で炊事に当る姉人の労仂を何とか工夫して便利なものにしなくてはと思い普及員の方や参考資料等集め研究致したのであります。農民は金が無いので改善出来ない、これが農民の口ぐせのようです。これが現在許された言葉でしょうか。そこで私は創意と工夫に依り出来る尤少い圣費で改善出来ないものかと明るい楽しい農村生活を目標に改良カマドの研究を思立ったのであります。

研究過程

以上の様な点から先ず私はカマドの改良を計画実施致しました。カマドの構築をするに当っては
1.燃へ易く熱効率の高いもの
2.燃料の節約が出来るもの
3.余熱利用が出来ること
4.健康的であること
5.安くて容易に素人でも築けるもの
6.耐久力のあるもの
等の点について資料を集め又実際改善されているカマドを見學しあらゆる長所を生し研究した結果三釜式改良カマドを作ることにいたしました。では以下計画について説明致します。

計画実施表

項目備考
形式三釜式改良カマド
能力五升 三升 三升
予算七、〇〇〇円 鶏四0羽の収入による
構築三〇年九月
材料レンガ、セメント、砂、バラス、珪藻土、焚口(二個)、ロストル、土管(煙突)、油煙、釜輪、粘土
設置場所現在の炊事場に窓をつけ胮耒の配置を考慮し中央におく
必要器具鉄板、ショベル、コテ

以上のような計画を樹て実施しました。

先ず材料の購入でありますが第一表のような材料を購入致しました。
次に構築でありますが構築は九月八日より第二表の通り実施致しました。
以下実施表と図に依って築き方について説明致します。

先ず最初基ソコンコクリートであります。これは巾四尺奥行三尺厚サ二寸のものを作りました。作り方はセメント一砂三砂利六の割合で配合しました。
次にカマドの構築に移りますが基ソコンクリート実施后四日目に行いました。

では築き方について図に依って説明致します。先ずレンガを必要な分だけ水につけモルタールを作ります。モルタールは石灰〇.二砂二尺セメント一の割合に配合して作りました。モルタールはレンガの接着に使用します。これで準備がすみ構築に入りますが私しは次のような順序で行いました。

一段目 薪置場を残してレンガを並べレンガの上にモルタールを塗っておきます
二段目 左釜の給気口の準備をしておきます。他は一段目と同じです
三段目 右釜の給気口の準備をし左釜の給気口をつけます。この上に一尺二寸のロストルをつけ奥の二段の上にのせます
四段目 左釜に焚口を針金で控を取りレンガの目地に針でさします。奥釜の準備をします。これと同時に右釜に九寸ロストルを取りつけます
五段目 薪置場のフタをします右釜に左釜同様焚口を取りつけますがこの時もう一度左右とも針金で止めておきます
六段目 左釜と奥釜を珪藻土普通粘土二、五を混ぜて釜穴を作り形を整へます
七段目 右釜を六段と同様形を整へ煙道を作ります
八段目 三つの釜と煙道を残して全部フタをします。そうして煙突を立てます。ここで私は耐久力のある直圣四寸の土管を使用しました。価格はワタ製のものよりも高価でありますが火災予防の点から土管を使用しました。これがすみますと釜輪をとりつけます。左釜五升右奥釜三升焚のものを取つけました。次に荒塗りをします。この時はレンガ積甲モルタールを使用します。
仕上げ 仕上げは荒塗の上をセメント五 油煙〇.五、配合しこれにて緦仕上げをします。
以上で構築は終ったのでありますが素人のため時間的に相当無駄を生じたようでした。

実績

今申しましたような順序でカマドを作ったのでありますがその結果次のような点が実績として明かになりました。現在改善されているカマドは種々ありますが大方の家庭のカマドは一万~一万五阡円程度投じて構築されているようです。私の場合は自家労仂で材料費のみの現金支出四、七八二円程度で築き上げる事が出来ました。私の目標でありました安い圣費で素人でも作れるものとしてこのカマドは最も適合していたようです。
火入は仕上后一週間目に行い三〇分トロ火で行いました。湯を沸かして見ました所前のものに比べずい分早く沸くような気がしました。火入后二〇日目米一升を煮るに要する時間と薪の必要量を無改良の場合と比較して見ました。その結果は第三表の通りであります。
この表にても解りますように一日二回で一時間を要していたものが改良カマドになってからは一日三〇〇分で出来るようになりました。時間の節減と同時に燃料費も無改良の一日一五円に対し七円で出来るようになりました。燃料費を年間に換算しますと改良カマドの場合二阡五百円ですみますが無改良の場合は何と五阡四百円の燃料を消費することになります。又冬期間は毎年薪取りに明け暮れて農作業に相当マイナスをしていましたが改善后はこの労力も農作業に投下することが出来るようになりました。今年は水田裏作も殆んど実施し甘ラン等は特に成績が良いそうです(年間二五日)また一方農村姉人の炊事に要する時間は農水業の不合理性と併せて温床になっていましたがこの点も時間的に年間一八〇時間雪原することが出来ました。カマドの改善をすることにより無駄な時間無駄な燃料を消費していることに気ずきました。改善するには金が必要になり余裕が出来て改善を行うのが私はこの考ヘ方では何事であっても進歩向上は望めないのではないかと思います。改善后の一年間を省みます時に私の作りましたカマドの材料費は燃料代及び雪原時間に依り大体一年間で消却出来ることになります。現在私しは改良カマドに切換へたため時間に余裕が出て来ましたのでこの時間をどのように利用するのかを家族と相談した結果、
1.食生活の合理化
2.ニワトリの管理
3.修養娯楽
の三つの問題が上りこれを先ず最初私はニワトリの飼養管理に廻しております。母が朝を除いて二回実施しております。

性能比較調査表

燃料費米一升煮る時間備考
改良カマド一日分薪代 七円
一ヶ月 二一〇円
年間 二,五五〇円
無改良カマドに対してニ,九八〇円減
一日二回 三〇分
一ヶ月 一五時間
年間 一八〇時間
一日の労仂を八時間とした場合、
二二日四時間×二〇〇円=四,五〇〇円
7,020円余熱釜の利用が出来る
無改良カマド一日分薪代 一五円
一ヶ月 四五〇円
年間 五,四〇〇円
改良カマドに対してニ,四八〇円増
一日二回 一時間
一ヶ月 三〇時間
年間 三六〇時間
一日の労仂を八時間とした場合、
四五日間×二〇〇円=九,〇〇〇円
14,400円

社会的影響

私は以上の成績を青年会研究会等に於て発表致しました処好評を得て居ります。

私の部落に於けるカマド改善の動向

緦戸数改善戸数
昭和三十年度三二
昭和三一年度三二
昭和三二年度三二一三
昭和三三年度(一月)三二二二

私の部落は戸数三二戸でありますが昭和三十年度はわずか二戸、改善されていたのものが表の通り三十二年度には一三戸、三三年一月現在二二戸が改善されています。

私はこゝにおいて考へさせられましたことは農民はその効果が表れたら必ず改善意欲が向上して来ることをこのカマド改善の一例に依っても知ることが出来ました。
又農民の考方として私しは出来る尤圣費節減を目標に実施しましたが私の部落も改善はされたものの見へをはる農村ではその慣習から抜けきれなかった事は残念でした。

又一方口に於ても県に於ても植林が推進されております時、年間に於ける燃料の消費は唯一戸の場合では金額にして五,四〇〇円でありますが、これを私の町の年間消費を考へて見ますと何と二百数十万円の金額になります。私の町では今産業振興の一大方針とし緑の郷土建が進められております。年々薪にするための伐採されていますがこれ等後地にも改良カマドを構築すること。燃料の節減に依り用材林の植栽のできることも忘れてはならない問題ではないでしょうか。

將来への計画

私しは唯カマドのみの改善に依って安心出来たのではありません。台所をあずかる姉人は野良での労仂にもめげず日毎ゝ眠に涙で台所を担当している「姿」を見耐へきれず生活改善中カマドの改良を実施したにすぎません。
生産力の向上も先ず明るい家庭生活より実現出来るのではないでしょうか。
今后は農業生産と結びついた台所の改善を実施すべく計画しております。
楽しい明るい農村生活を求めて生産力の向上に又生活の合理化に努力し若き我々青年の創意工夫に依り新しい村づくりに励むことを誓って私の発表を終ります。

以上