前を向き続ける患者さんと医療従事者の方々の向き合う姿勢は努力そのもの|口から食べられることの大切さを学ぶ

前を向き続ける患者さんと医療従事者の方々の向き合う姿勢は努力そのもの|口から食べられることの大切さを学ぶ

皆さまこんにちは。先日23(金)、24(土)の二日間におきまして、幕張メッセにて日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会が開催されました。

第28回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会

https://site2.convention.co.jp/jsdr28/program/

会場が10に分かれ、初日は8時半から最大20時までの中で一会場5~7講義ほどが開催されました。一コマ1~3時間程度、平均して2時間程度の講義のため一日に参加できるのは4~5講義ほどになります。聞きたい先生や内容が重なりますが絞って場所と開始時間を確認し現地へ向かいました。私は2日間で8つのお話を聞くことが出来ました。
(別のホールで開催されている「テレビ朝日ドリームフェスティバル2022」も「ディズニー・オン・アイス」も気になって仕方なかったですが…)

目次

とろとろの肉は、僕が食べたい肉じゃないんだ

一番印象に残ったお話は、歯科衛生士の方が訪問しているとある在宅患者さんの言葉です。
「とろとろのにくはぼくがたべたいにくじゃないんだ」

交通事故で遷延性意識障害になった方を、歯科衛生士さんが訓練指導に訪問され、時間をかけて少しずつペースト食が食べられるようになりました。そのうち、目や態度で意思表示を示されることが少しずつ分かるようになってきたことから、もしかしたら文字が書けるようになるかもしれないと紙とペンを患者さんに渡してみたそうです。はじめは腕が重くて下がってしまい文字なんてとても書ける状態ではなく線のようになっていましたが、年月を重ねて少しずつ書けるようになり、そしてそれが話すことのできない患者さんの大事なコミュニケーションツールになったのです。「患者さんは意識が無い、意思がない、なんて嘘です。諦めないで伝えたいことをこちらが聞こうと努力をしたら、患者さんの思いが伝わります」

専門的に見ながらご家族と一緒に患者さんが少しずつ飲み込めるようになる。そのうち書くことで意思表示できるようになる。長年かけて患者さん、ご家族、歯科衛生士さんや医療従事者の方々の努力でできるようになってきたそうです。
そしてある日、食べたいものを聞いてみたところ、ステーキが食べたいと。そこで念願のステーキ。ペースト状にしたステーキを食べられて、味が分かる。とても嬉しかったそうです。
しかし、あの言葉。「食べて吸引が増えても私はやっぱり口から少しでも食べたい」という思いだったというこの時のお話をして下さいました。

胃瘻でも味が分かるんだよ

今のお話と同じシンポジウムでの、別の方からのお話もとても印象に残りました。お子さんが経鼻栄養や胃瘻で、その親御さんたちが集まって一般社団法人を立ち上げた方からのお話です。
私は仕事上、胃瘻がどういうものかは一応理解はできていたつもりでした。でも実際に胃瘻の人が身近にいる訳ではないですし、栄養剤を胃から流し込むことは生きるための選択肢の一つと思っていました。
でも、本当はやっぱり口から食事を摂りたい。誰もが思うはずです。
「この子たちにとって栄養剤はガソリンじゃないんだ」。
昔、重度の心身障害者施設に勤務する方がよく言っていました。約300名入所している大型の施設で、そのほとんどが刻み食以下です。「エサじゃないんだよ」と。

ペースト状で美味しそうに見せる工夫、味付けの工夫。お母さんたちのペースト状でのキャラ弁の紹介の写真を見せて頂きましたがどれも器用に可愛らしくキャラクターが描かれていました。

喋ることがこんなに大事なこと、食べることがもっと大事なこと

今回のメインとなる、特別講演としてお話下さった歌手で女優さんのお話です。
舌がん術後の経験を通して現在も継続しているリハビリの様子や思いをたくさん聞かせて下さいました。以下は私が覚えている限りを記載いたしますがニュアンスが異なる部分があればご容赦頂けますと幸いです。

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絶望感しかないところから救ってくれて、「リハビリ」で目標に目を向かせてくれた。
それまでは原因探し何がいけなかったのか。でも入院中に前を向かせてくれた。
最初のリハビリは「口を開ける訓練から」。まさかと思い、そんなのリハビリするまでもないと飛ばすものと思っていたら、

”到底たどり着けないところに自分はいるのだと気づかされた”

そこからリハビリが始まった。
舌根を出す、引く、ロングブレス、タッピング、スタッカート、マウスピース…
上手くいく日といかない日。
気温、体調、寝起き、何か好不調の波が、原因があるのではないかと色々検証したけど、何もなかった。
唯一、先生と話していて考えられたのは、血流なのかな?と。
悲しい思いを通り越して自分が何かに向かうことが楽しみになってきた。
喋ることがこんなに大事なこと。食べることがもっと大事なこと。
気づかされた。ご縁を頂いたんだと。
50過ぎてポロポロ食べ散らかして。
でも悲観するんじゃなくて楽しんでいる。
出来ていた時の自分が思い出させてくれる、他の部分が補ってくれる。
絶望感しかなかった時はまさか早口言葉まで言えるようになるなんて。
あの時の自分に教えてあげたい。
「お母さん、手術前でも早口言葉できなかったじゃない」と娘に笑いながら言われた。
今は音域も広がった。
歌を歌う仕事をしていて、口の使い方に向き合えた。
言語聴覚士、嚥下の先生方が寄り添ってくれて、不可能なことはない。ここまで辿り着けるんだ。と。
今でもブレス、ボイトレ、こつこつと続けている。
まとめてやっても成果はない。ながらでもいいから3分でもいいから。

お陰様でたくさんの夢と目標が持てた。目の前の目標は、デビュー40周年のコンサートを開くこと。
2019年3月で40周年になった。手術は2019年2月、その後もコロナもあり考えもしなかったが、
今はその目標に向かっている。曲数を減らすつもりもない。
もしうまく歌えなくても、話せなくても…
気持ち、口の動き、身ぶり手ぶり、目、表情、ハート、魂
言葉も歌も伝わるものと思っている。
同じ病気の人に見てほしい。
今、講演でこのように話して一時間が経つ。決して”やると疲れる”じゃない。
喋れば喋るほど血流が良くなって緊張がほぐれる。そうするともっとなめらかに喋れるようになる。
そしてそういう時にだいたい講演会はおしまいの時間なんです。
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最後は会場全体が温かい拍手に包まれていました。球場でもよく感じますが、拍手に温かみがあるんですよね。その温度感は必ず伝わるから不思議です。
リアルな声を届けて下さり、胸に刺さる思いでした。でも目の前で話して下さるその方は、今、とてもキラキラとされていて。絶望感から希望を見出して前を向く方の言葉が、魂が、力強く伝わりました。

管理栄養士の登場も増えるときっと食べられるものの幅も広がるかもしれない

演者は445名でした。そのうちメインとなるのはもちろん言語聴覚士ですが、演者の内訳は以下のようです。
・言語聴覚士154名(34.6%)
・医師78名/歯科医師78名/歯科衛生士11名/看護師49名(48.5%)
・管理栄養士33名/理学療法士7名/作業療法士8名/検査技師1名/調理師1名(11.2%)
・教諭(大学・専門学校等)6名/工学博士2名/学生3名(2.5%)
・企業・研究8名/その他6名(3.1%)

今回私の参加した講義の中で管理栄養士の方がお話した会はよくよく振り返ってみると一つもありませんでした。咀嚼嚥下の機能を理解し、食品の特性や調理による素材の変性を理解し、多様な専門の方との連携で向き合っていくことが必須との認識でいます。しかしこうしてみると、これが全てではありませんが言語聴覚士と医師・看護師が大多数を占めているのですね。私自身ももっと勉強をし関われる機会を増やしていけたらと感じました。

そして専門職ばかりでなく企業努力も本当にすごいと感じています。前職で働いていた時、数年前の社内研修にて「炭酸飲料にとろみをつけるとどうなるか」を実践し、見事に溢れ出るということをやりました。病院や高齢者施設の現場では厨房から炭酸飲料を提供することがないため知らない現場の栄養士が多いと思い当時やってみました。そんな懐かしいことが思い出される講義に参加することができました。
とある企業から炭酸飲料にとろみが付けられる増粘剤が開発され、こちらもお話に参加したのですが実戦形式がとても楽しかったです。美味しい、飲みやすいとレポートして下さっていましたがその後、出展ブースにて試飲させて頂いたのですがビックリ、本当に飲みやすくそしておいしかったです。写真は増粘剤をペットボトルに入れて思いっきり攪拌している様子ですね。楽しく参加出来ただけでなく、「ただのとろみ水と炭酸飲料でのとろみの嚥下反応に違いがあるか」など専門的な考察も期待を込めて聞かせて頂きました。

ライブ配信視聴を選んで失敗した…現地で聞きたかったビールのお話

大失敗しました…選択を間違えました…
私の大好きな大好きなアサヒビール㈱がイブニングアワーとしてお話をされたのです。
テーマは<ビールの美味しさとは?スーパードライのウマさのヒミツ>です。
ライブ配信でももちろん内容はしっかりとお話聞けましたしとても楽しかったのですが、これはきっと現地でしか味わえない空気感だったかと思います…

お酒を飲まれる方でもビールは好き嫌いが分かれると思います。
その中でもビールが好きな人はアルコール類の中でも、何故ビールを好むのでしょう?
私はあの苦味と爽快感ですね。
球場に行って飲む時はビールしか飲みません(ビールを飲まないで静かに応援する時の方が多いですが)。
そして特に私は、絶対にアサヒビールです。ピンク色のユニフォームを来た売り子さんが近くを通りがかったらサッと手を挙げてpaypayで購入です。球場で飲むビールは何であんなにおいしいんでしょう。
あとは仕事の後の一杯ですね。頑張った時ほど美味しく感じます。不思議です。
逆にビールを飲まない方は苦いから苦手という方が多いようですね。私も初めはそうでした。苦くて苦くて、何でこれを美味しいと言う人が多いんだろうと。梅酒やサワー、カクテル系しか飲めませんでした。
でも今は美味しいと思って飲みます。食べ物の好みも変わったように思います。以前の記事に牡蠣の話をしたことがありましたが、牡蠣も初めは苦くて食べられませんでした。いつからか美味しいと感じるようになりました。味覚は変化していくものなんですね。
ビール業界の方もそこは着眼点の一つにあったようです。昔、ユーザーの常識は「ビールは苦い物」の認識であるものの、現在での仮説では「ユーザーの嗜好は変遷する」というところをきちんと考慮した上で開発されているようです。その上でユーザーのより望んでいるものは「コク」「香り」「味わい豊かなもの」という市場調査もあるようです。

そしてビールと言えば「苦味」「キレ」「爽快感」「刺激」「後味」という印象があると言いますが何よりも「のどごし」ですね。別の企業からは発泡酒の商品名に”のどごし生”とつけるほどですから、どれだけ重要かが分かります。今回は日本摂食嚥下リハ学会主催の学会でしたが通ずるものがあると。企業としては「嚥下」とは言わないけれどそれを「のどごし」と表現していますと。
「のどごし」「香り」「コク」「味わい豊か」。これをビール業界ではとても大切にしています。

さいごに|一番好きなものから大切な原点を学ぶ

食べることも同じですね。私たちはエサを食べているんじゃない、ガソリンなんかじゃない。食事を楽しむこと。シンプルに、それだけ。人が生きていくために必要なもので、食べることは当たり前のことだけど、食べられなくなって初めて気づく。食べられなくなると生命に関わる。
この二日間はどれも勉強になるとても良いお話が聞けましたが、何よりもこちらのお話が一番基本的で一番大事なことを、私は食べることの原点を教えてくれているように感じました。

ブースを見て周りさまざまな企業が出展をされていて、どれもこれも見たことのある懐かしい商品ばかりが並び、そんな中で新商品に驚かされ、私が近い将来嚥下状態が悪化しても生きていけそうと思わせてくれるような企業努力があちこちに点在していました。とろみ剤はまずい、ペースト食はまずい、こんなことが過去になり、今は「美味しいペースト食、とろみ水」が身近に出回ることが当たり前の世の中になるんですね。企業の力ってすごいと本当に感じます。

書籍を見て帰ろうとしたときに、ブースの端にある千葉物産展が目に入りました。
今回はチーバくんもうなりくんも遊びに来ていたようです。
その中でも「千葉の酒」が気になり、そして買ってしまいました。お酒を買ったことに満足して書籍のことはすっかりと忘れて帰ってしまいました…
気を取り直して、また新たに日々勉強していきたいと思います。本日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。