皆さまこんにちは。前回の記事に引き続き医療保険や介護保険で算定出来る管理栄養士の業務についてお話したいと思います。前回は栄養ケア・ステーションについてお話し、そして平成30年度の診療報酬改定(入院栄養食事指導料2)に引き続き令和2年度の診療報酬改定の際に栄養ケア・ステーションの管理栄養士でも診療報酬の算定対象として新設された(下記)というお話をしました。そして間もなく令和4年度の診療報酬改定の時期となります。ここまでで実際の活躍の場は少しでも何か変わったのでしょうか。
前回もお話した通り私の住む街には栄養ケア・ステーションはありません。地域包括支援センターが中心となり地域住民を支えているというのが現在の一般的な仕組みかと思われます。現在の仕組みの中で管理栄養士として算定できるものを3つおさらいしたいと思います。
✓外来栄養食事指導料(診療報酬)
✓在宅患者訪問栄養食事指導料(診療報酬)
✓居宅療養管理指導(介護報酬)
目次
目次
外来栄養食事指導料
✓外来栄養食事指導は、初回指導月は月2回まで、その他の月は月1回算定できる
✓入院栄養食事指導料を算定している範囲に加え、外来の場合にはさらに以下も対象となる
_高血圧症の患者に対する減塩食(塩分の総量が6 g未満のものに限る)
_小児食物アレルギー食(食物アレルギー検査の結果、食物アレルギーをもつことが明らかな9歳未満の小児に限る)
✓高度肥満症の患者に対しては外来栄養食事指導料の場合肥満度が+40%以上またはBMIが30以上で対象
(入院時は特別食加算となるのは肥満度が+70%以上またはBMIが35以上。外来と病院では対象基準が異なるため注意)
在宅患者訪問栄養食事指導料
✓在宅での療養を行っている患者であって、疾病・負傷のために通院による療養が困難な者について、医師が別記特別食を提供する必要性を認めた場合、またはがん患者、摂食機能または嚥下機能が低下した患者、低栄養状態にある患者に対して行われる
✓医師の指示に基づき、管理栄養士が患家を訪問し、患者の生活条件、嗜好などを勘案した食品構成に基づく食事計画案または具体的な献立などを示した栄養食事指導箋を患者またはその家族などに対して交付するとともに、当該指導箋に従い、食事の用意や摂取などに関する具体的な指導を30分以上行った場合に算定することができる
✓単一建物診療患者の人数に従い点数が異なり、同一建物患者が1名の場合は530点、2名~9名の場合は480点、10名以上は440点となる
✓交通費は患家の負担となる
居宅療養管理指導
介護保険での訪問栄養指導
✓介護保険による訪問栄養指導は管理栄養士による居宅療養管理指導(居宅療養管理指導は、管理栄養士以外にも医師、歯科医師、看護師、薬剤師、歯科衛生士により行われる)となる
✓対象は特別食に該当する症例のほかは、経管栄養のための流動食、嚥下困難者(そのために摂食不良となった者も含む)のための流動食、低栄養状態となっており、医療保険と若干異なる
✓全く経口摂取をしていない症例、100%経管栄養の症例であっても、その栄養に関する指導などで訪問することができる
✓下痢や腹部膨満感をきたさない経管栄養材料やスケジュールの提案・指導が望まれる
✓ケアマネージャーの手配+医師の指示のもとに行われ、給付限度は月2回
✓居宅療養管理指導の事業を行うことができるのは、病院、診療所、薬局である
✓計画的な医学的管理を行っている医師の指示に基づき、栄養管理に係る情報提供及び指導又は助言を30分以上行う
新設のまとめ|診療報酬・介護報酬 改定前/改定後(新設)
医療保険と介護保険での新設を同時に記載してしまいましたが、その中で”介護保険”に管理栄養士が関わるのはこの”居宅療養管理指導”だけなのです。給付限度は月2回までで、それも管理栄養士に限らず医師、歯科医師、看護師、薬剤師、歯科衛生士でも栄養指導が出来るので「絶対に管理栄養士でなければいけない」、という事はありません。
またこの改定までは管理栄養士として居宅療養管理指導の事業を行うことができるのは、病院、診療所、薬局に限られていました(医師の指示のもと)。しかし医師のいない薬局の場合、当然ですが管理栄養士だけで栄養指導は出来なかったのですが、それが栄養ケア・ステーションの管理栄養士でも良いということになったため薬局の管理栄養士が栄養ケア・ステーションに登録することで今回の法改正により対応が可能になったという訳です。
栄養ケア・ステーションの活用が求められる今回の改定でしたが、令和2年度、3年度とコロナに振り回された2年間でもあるので実際にどの程度活用できたかどうかは正しく判定できないかもしれません。しかし事業が順調に機能していると言える地域は少ないのではないでしょうか。なぜそう感じるかといいますと実際にサービスについて私の周辺地域では聞いたことがないからです。現在、保険外サービスでの利用者さんに対して料理を作りに行ったりしているとお話しましたが、そこの民間企業は近隣の地域包括と連携を取り運営されています。よほど信頼されていないと地域包括から依頼がくることもないため、その必要性が伝わります。そしてその依頼の中で最も多いのが料理代行とのことです(2位:外出同行、3位:見守り話し相手)。よく連絡をくれる近隣の地域包括の方は利用者さん本人の希望の有無関係なく、栄養面を懸念しているケースもあるようです。今回私が定期的に訪問している利用者さんもその方からお話があり、腎臓を患って入院し退院したけど独居のため栄養面を見守ってほしいというお話からでした。私は栄養士職としてそのお宅に入っているわけではありません。あくまでも一スタッフとして入っているだけです。本来であればここに介護保険を利用したサービスで栄養管理して頂けるのではないのでしょうか。それが上限月2回だけでも違ってくると思います。このケースに私が入るほどなので、そのサービスとして入れる管理栄養士(または看護師など)がいないのか、介護保険の利用限度が他のサービスで上限に達し利用できないかのいずれかかと思います。もし利用者さんが望んでいないから入る必要がないと判断されているとしたら悲しいものです。危機意識を持って少しでも重症化予防に努める必要もあると私は個人的に思います。
※あくまでもこの近隣の、私が数人の利用者さんに関わった一例です。他のエリアでは新設された診療報酬や介護報酬を利用してサービス提供している事例は実際に多くあると期待しています。
日本の医療・介護を取り巻く背景をおさらいすると
少子高齢化が進む中で1997年に介護保険法が成立、2000年に介護保険制度が施行され、3年ごとに見直されてきました。簡単に時系列でまとめます。※診療報酬は2年ごとの改定
✓平成24年度(2012年度) 診療報酬・介護報酬 同時改定
医療・介護の機能分化や地域包括ケアシステムの導入など「社会保障と税の一体改革」推進のため大きな改定。特に介護報酬改定で老健施設の「在宅支援機能強化」が宣言されその後在宅復帰の状況とベッド回転率が指標化、50%以上が在宅復帰すれば「在宅強化型」として高い報酬が得られることになった。
✓平成26年度(2014年度)診療報酬改定
標語は「ときどき入院、ほぼ在宅」。医療と介護の方向性が一段と明らかになりこれほどまでに「病院機能分化」と在宅・地域という方向性が明確に示された改定は珍しい。地域包括診療料と地域包括診療加算を新設し、在宅医療・訪問看護を高く評価。
✓平成27年度(2015年度)介護報酬改定
地域支援事業の再評価や通所リハビリの機能の見直し。
また「介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)」創設。大きく分けて「介護予防・生活支援サービス事業」と「一般介護予防事業」。介護保険の予防給付では必要なサービスをカバーしきれずNPOや民間企業、ボランティアなどによるサービスを充実。
✓平成28年度(2016年度)診療報酬改定
地域包括ケアシステムの推進と医療機能の分化・強化、連携に関する視点から改定されたが、医療・介護は密接不可分で、どうしても同時改定でないと大改定を英断できない状況が明らかになっていた。
※平成29年(2017年度)6月2日に交付 地域包括ケア強化法
介護保険法は改正され、平成30年 4 月 1 日から、老健施設はこれまでの「在宅復帰」に加え「在宅療養支援」を担う施設であることが明確化。在宅復帰・在宅療養支援機能がないと判断された施設は「その他型」扱いとされ、短期集中リハビリ実施加算や経口移行・維持加算、所定疾患施設療養費などの多くの加算が算定できないこととなった。
✓平成30年度 (2018年度)診療報酬・介護報酬 同時改定
平成30年度の同時改定は、診療報酬面では地域包括ケアシステムの構築と医療機能の分化・強化、安心・安全で納得できる質の高い医療の実現・充実、および働き方改革の推進を主眼に改定。また介護報酬面では同様に地域包括ケアシステムの推進、自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現、多様な人材確保と生産性の向上および介護サービスの適正化・重点化を通じた制度の安定性、持続可能性の確保を目的に改定。
✓令和元年度(2019年度)なし
✓令和2年度(2020年度)診療報酬改定
✓令和3年度(2021年度)介護報酬改定
✓令和4年度(2022年度)診療報酬改定
✓令和5年度(2023年度)なし
✓令和6年度(2024年度)診療報酬・介護報酬 同時改定
✓令和7年度(2025年度)なし 団塊の世代が75歳を迎える(75歳以上が4人に一人のいわゆる”2025年問題”)
さいごに|介護保険だけに頼らない、高齢者を支える仕組み作りの発展を期待します
前回の記事では兵庫県での報告(厚生労働省ホームページ)を拝見したものをご紹介いたしました。
【地域包括ケアシステムの推進における県と市町村栄養士の協働】というテーマにおいて、平成30年度の同時改定前での段階での現状がとてもよくわかる内容でした。
(平成28年度~29年度)
地域包括センター2,710のうち 1.8%しか管理栄養士は配置されていない。
・地域ケア会議を開催している798市区町村のうち、参加しているのは 27.2%
・宅医療・介護連携会議を開催している591市区町村のうち、参加しているのは23.0%
<参加できない理由>最も多い「栄養士を充分に活用できていない」、次いで「栄養改善が課題として認識されていない」
・行政の立場としても<関与できていない理由>担当部門の管理栄養士配置率低い
・市町庁内にて“健康増進部門”と“介護保険部門”が連携できていない
そして繰り返しになりますが、令和2年度の診療報酬改定の際に、初めて栄養ケア・ステーションの管理栄養士が診療報酬の算定対象として新設。栄養ケア・ステーションが無い地域は従来の地域包括支援センターが中心となりますが、国としての制度は整いつつあるものの市内においての実態は運用されていない、地域包括から働きかけても現実は非協力的と感じざるを得ないほど行政の動きを期待していてはニーズがあってもこたえられないというのが現状のようです。診療報酬を見据えた栄養ケア・ステーション体制の充実は喫緊の課題であるように感じます。
健康寿命延伸対策として介護予防の取り組みが求められています。令和2年度、3年度の改定は関連団体が「栄養」をキーワードとし改定に対する働きかけを行っており、厚労省も”超高齢社会”というキーワードのもと、ロコモ、サルコペニア、フレイルといった多くの栄養に関する問題を意識している点も追い風になっているという見解でしたが、問題意識に対して制度が活用できていない現状が散見されます。他の分野では保険外サービスや自費サービスを展開していける状況の中、栄養面でも宅配や見守りサービス以外での取り組みも必要と感じています。
高齢者が健康で長生きできるために支えていける仕組みづくりが街単位で広がり、要介護状態になることを予防するための仕組みが整うことを願っています。待ったなしの現状を介護保険だけに頼らず、地域包括と民間企業や団体、NPO、ボランティア、町会、そして住民などさまざまな立場の人たちが連携し合うことで現在の高齢者だけでなくいつか自分が高齢になった時に初めて「支え合える」と言えるのではないでしょうか。どんなに健康寿命を引き延ばせたとしてもいつかは誰かの手を借りなければ生きていけなくなります。そんなときに安心して任せて暮らしていける社会であって欲しいと願います。そのうちの一つである”食べることは生きること”を合言葉に保険や制度だけに囚われない仕組みが栄養面でも整うと嬉しく思います。
本日も、最後までお付き合いくださいまして有難うございました。