病院での減塩対応|日本の食卓からもいつか味噌汁が消えてしまう?

病院での減塩対応|日本の食卓からもいつか味噌汁が消えてしまう?

皆さまこんにちは。本日は味噌汁についてお話したいと思います。
私は毎日味噌汁を飲みます。一日2回は飲みますが、特に作り立ては本当に美味しいですよね。火を止めて味噌を溶かし、出来立ての味噌汁を一口頂いてから、食事を摂ります。人生最後のときは納豆ご飯と味噌汁がいいなぁと今から考えてしまっています。もちろん他にも食べたいものはたくさん思い浮かぶのですが、お寿司やお蕎麦、パスタ、ラーメン、餃子、唐揚げ、牡蠣、タコ、アワビ、フグ、うなぎ、チーズ、だだちゃ豆、ポテト、チョコレート、アイスクリーム、ケーキ、さくらんぼ、ビール、日本酒…考え始めると止まりません(笑)それでもぐるっとまわって、やっぱり納豆ご飯と味噌汁なのです。毎日でも飽きなくて、飲むと元気になれる気がします。
少し前まで働いていた職場の近くの台東区鳥越にお味噌屋さんがあって、そこで買った味噌が美味しくてそれ以来今でもそこに買いにいっています。

そんな大好きな味噌汁ですが、病院での献立作成時には味噌汁を献立から外す傾向になっています。味噌は体に良いと言われてきた日本の伝統的な調味料です。病気で塩分制限をしなくてはいけないことは頭で解っていても、飲むとホッとする温かいお味噌汁を病院という孤独な病室で頂くことができないのは悲しいなぁといつも思っていました。

目次

味噌の分類

Japanese Meal Soup Miso Soup Fish  - likesilkto / Pixabay
likesilkto / Pixabay

現在は全国で500種類を超える味噌が造られていると言われています。味噌の作り方はご存知の方も多いと思いますが、蒸した大豆に麹と食塩を加え発酵させます。麹の種類によって”米みそ” ”麦みそ” ”豆みそ”に分類されます。また米みそは色の違いによって”赤みそ” ”淡色みそ” ”白みそ”に分類され、さらに塩分量の違いによっても”甘みそ” ”甘口みそ” ”辛口みそ”に分けられるという、とても奥深い歴史ある日本の代表的な調味料であります。

味噌は日本独自の調味料として長い歴史を辿ります。平安時代には薬とされていたとの記録がありますが今でも体に良い効能をよく耳にしますね。何故かと言うと原料である大豆・麹・塩によりタンパク質、ビタミン、ミネラルなどが豊富に含まれているからなのです。中でも大豆にはタンパク質の栄養価を評価する”アミノ酸スコア”が最高値の100となっており、体内での合成が難しい必須アミノ酸をバランスよく含んでいます。ほかにも大豆の機能性成分として、抗酸化作用のサポニンや食物繊維、イソフラボンなど、健康に良いとされる成分が豊富に含まれているのですが聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。また発酵食品のため酵母や乳酸菌などの栄養素が含まれています。味噌の効能をまとめるとこのようなものがよく挙げられます。

味噌による効能10項目

✓二日酔い予防
 コリンという成分がアルコールを早く体外へ排出しようと働きます。

✓老化を防ぐ(抗酸化作用)
 ビタミンEや大豆イソフラボン、サポニン、褐色色素により体内の酸化を防止する作用をもちます。

✓ 美肌効果
 味噌に含まれるリノール酸にはメラニンの合成を抑え、シミやソバカスを防ぐ働きがあります。またイソフラボンはポリフェノールの種類で女性ホルモンのエストロゲンに似た役割をする事で知られていてコラーゲンを生成します。

✓ダイエット効果
 食物繊維による便秘解消効果で、ダイエット効果も期待されます。また、大豆に含まれるタンパク質のひとつであるβコングリシニンに血中の中性脂肪を低下させる働きがあるとも言われています。

✓免疫力アップ
 発酵食品のため乳酸菌が豊富に含まれているのですが、乳酸菌には食物繊維というエサが必要です。同時に摂取できることで腸内細菌のバランスが良くなり免疫力アップに繋がります。

✓ コレステロールの抑制
 サポニンには血清コレステロールの上昇を抑える効果があり、またレシチンや食物繊維にはコレステロールを除く働きがあります。

✓胃潰瘍の予防
 味噌の麹や酵母、乳酸菌に含まれる酵素には消化を助ける働きがあります。 また味噌には胃の粘膜を守る働きもあり、味噌汁を毎日または時々飲んでいる人は、全く飲まない人に比べて胃炎や胃・十二指腸潰瘍が少ないという研究結果もあります。

✓がんの予防
 胃がんは日本人がかかりやすいがんの一つですが、味噌汁を飲む人は上記と重複しますが胃の粘膜を守る働きもあるため胃がんによる死亡率が低いことが発表されています。その他にも乳がんや肝臓がん、大腸がんなどにも予防効果があるといわれています。

✓血圧低下
 味噌の塩分は高血圧につながらないという説も学会で発表されました。発酵段階もしくは熟成段階で血圧を下げる物質が出来ていると考えられており、特に赤味噌は血圧を下げる作用があるといわれています。

✓糖尿病発症予防
 特に八丁味噌で解ったことになるのですが、厚生労働省が都道府県別に作成したランキングによりますと愛知県の中でも最も八丁味噌の消費量が多い武豊町という地域において、糖尿病の発症率が最も低い事が調査により解ったそうです(豆みそは豆麹を原料として作るため大豆のみが主原料となります。豆特有の旨みとかすかな渋みのある味噌が特徴です)。

現代の常識|塩分を控えて疾病予防

食事において減塩は今や常識となりました。塩分を摂り過ぎると高血圧になりやすい、様々な病気を引き起こしやすいと言われ、 WHO (世界保健機関)や各種疾病ガイドラインの塩分摂取量の低減に合わせ日本も食事摂取基準改訂のたびに下げられてきています。食事摂取基準2020年版では5年前の前回の指標よりも0.5gずつ下げられ、男性7.5g未満、女性6.5g未満となりました。
ちなみに高血圧学会では一日当たり6g未満、WHOでは一日当たり5g未満が推奨されています。

【主な改定のポイント】抜粋

 - ナトリウム(食塩相当量)について、成人の目標量を0.5 g/日引き下げるとともに、高血圧及び慢性腎臓病(CKD)の重症化予防を目的とした量として、新たに6g/日未満と設定。

厚生労働省 「「日本人の食事摂取基準」策定検討会」の報告書を取りまとめました (mhlw.go.jp)

日本の国民栄養調査は戦後1947年(昭和22年)より開始されました。そのうち”所要摂取量”の掲載が始まったのが1950年(昭和25年)からで、当時は食塩相当量の日本人一人一日当り所要摂取量を15gとしていました。

現在の食塩摂取量は以下の通りとなります。昔に比べて随分と減りましたがそれでも目標量よりは高めの摂取量となっています(新型コロナウイルス感染症防止対策により令和2年度と3年度は調査を中止)。

食塩摂取量の平均値は 10.1g であり、男性 10.9 g、女性 9.3 g である。この 10 年間でみると、

男性では有意に減少、女性では平成 21~27 年は有意に減少、平成 27~令和元年は有意な

増減はみられない。年齢階級別にみると、男女とも 60 歳代で最も高い。

厚生労働省 令和元年「国民健康・栄養調査」の結果 000687163.pdf (mhlw.go.jp)

病院での献立作成|塩分を7.5g未満に、治療食は6g未満に

献立作成にはコツがいります。一食、一日、一週間、一か月間のバランスを見ながら食材の被りがないか、色合いや食材の切り方が単調でないか、同じ調理法や味付けが偏っていないかなどを考慮しながら組み立てていきます。その中で栄養価と原価を調整しながら組んでいくのですが、塩分低減が少しずつ厳しくなるとともに味噌汁を献立から外すことが多くなりました。

味噌汁一杯の塩分量は?

人間の体液の塩分濃度は何%で保たれているかご存知でしょうか。一般的に0.9%濃度と言われています。何故このような質問をしたかと言いますと、人が美味しいと感じる濃度がこの塩分濃度に近いと言われているからなのです。

では味噌汁一杯は塩分何グラムでしょうか。”米みそ淡色辛みそ”を例にお話したいと思います。関東甲信越はじめ全国で一般的に食されているいわゆる一般的な味噌になります。商品にもよりますが一般的に約12%の塩分濃度で製造されています。味噌100g中に塩分が12g含まれているということですね。
お椀の大きさにもよりますが一杯140ccで計算してみたいと思います。
味噌10gには1.2gの塩分が含まれています。
1.2g÷140cc=0.00857…
0.00857×100%=0.857% となります。140ccの味噌汁の場合、味噌10gで美味しく感じる濃度ということになりまして、その一杯分の塩分は1.2gになりました。
一日三食味噌汁を摂取すると一日合計3.6gの塩分を摂取したことになります。
補足ですが分かりやすくするためにだしの塩分は今回は入れていません。また具なしの、純粋に140ccの汁でお伝えしています。

おかずの塩分量を重量だけで考えてみると

今度はおかずの塩分量を考えてみたいと思います。様々な料理がありますのでここでは品数と一般的な塩分濃度のみで計算してみます。
朝2品:主菜・副菜
昼3品:主菜・副菜・副副菜
夕3品:主菜・副菜・副副菜

✓それぞれの塩分濃度
主菜:料理にもよりますが主菜は1.5~2%濃度と言われています。病院で作る料理は1~1.2%くらいの薄味を心がけます。
副菜:煮物や炒め物のイメージとなりますが、1%濃度またはそれ以下です
副副菜:お浸し、和え物、サラダのようなイメージです。0.5~0.6%濃度で作ります

✓それぞれの重量
主菜:100g ×1.2%濃度=1.2g ×一日3回=3.6g
副菜:80g ×1%濃度=0.8g ×一日3回=2.4g
副副菜:50g ×0.5%濃度=0.25g ×一日2回=0.5g

合計するとおかずだけで6.5gの塩分を摂取することになります。この考え方はあくまでも重量に対しての塩分濃度を計算した場合ですのですべての料理に当てはまるわけではありません。またこれだと野菜350gも達成していないことになるためこの単純計算だと突っ込みどころ満載の概念になってしまいます。あくまでも考え方の一つとして参考程度に、最低でもこのくらいの塩分がおかずに対して使われるという目安でイメージして頂けると嬉しいです。

さらに食材そのものに”ナトリウム”という栄養成分が含まれていますので調味料を使用する前からすでに食塩相当量として塩分換算されます。
【食塩相当量=ナトリウム量(mg)×2.54/1,000】 で算出しますので、たとえば「鶏もも皮なし100g」を例にしますと50mgのナトリウム量が含まれていて食塩相当量は0.1gと食品成分表に記載されています。何も味付けをしなくても0.1gすでに塩分があるということになりますので、おかずだけで6.5g以上の塩分を一日で摂取することになるのです。
さらに肉加工品のベーコンやハム、ウインナー、魚加工品であるさつま揚げやちくわ、かまぼこなど、こういった加工品には塩分が含まれているため料理に取り入れるとさらに塩分は増えていきます。

味噌汁は一日に一回だけ…

このように最新の食事摂取基準を目標に一日7.5g未満にするには、味噌汁は一日に一杯しか飲めないことになります。
ご飯は塩分0gですがパンに置き換えると塩分が少量あります。麺類となると麺の塩分だけでなく麺つゆの分で一気に塩分は多くなります。カレーライスや丼物も塩分は高くなります。
さらに言うと梅干しも漬物も佃煮もふりかけも一切入る余地がありません。おやつにおせんべいも食べられません。

病院での献立作成は疾病の方には一度も汁がつきません。一般食の方で一日1回または2回といったところでしょうか。工夫するならばお椀は小さくしてだしを効かせて薄めの塩分濃度にし、汁の具を増やすといったところが一般的です。またおかずの方も副菜一品は甘煮にして塩分を使用しないおかずに置き換えたりもします。よく減塩のコツとして「だしを効かせる」「香辛料やかんきつ類でアクセントを付ける」などと聞いたことがあるかと思います。あとは減塩醤油や減塩味噌を常用する病院もよくありました。このようにおかずでも減塩にする工夫をしつつ6g未満になるように調整します。
参考までに塩分が高くなりやすい料理の塩分をこちらに記載いたします。あくまでも目安となりますが何となく見て頂けるだけでも嬉しいです。こういった料理は疾病の方にはつきませんが、精神科や回復期リハなどの入院期間が比較的長くなる病院ではバリエーションを増やすためにもごくたまに出すこともあります。が、その際には相当薄くして提供します。
(以下は一般的な一例ですので参考程度に御覧下さい)
・食パン6枚切り1枚 0.7g
・醤油ラーメン1食 5g
・ポークカレー 2.8g
・梅干し1粒 1.8g
・しば漬け10g 0.4g 

さいごに|日本の食文化_味噌汁について考える日々

病院での献立作成時はおかずも汁物も塩分濃度を上記よりさらに薄くして汁物は一般食でも一日1回というケースが多かったですが、塩分を下げる方法の一つが味噌汁の回数を減らすというのはとても悲しい現実です。私は味噌汁の効能を信じています。味噌の塩分は高血圧につながらないという説も学会で発表されたと先ほども記載しましたが、その学説を信じていつか病院食でも味噌汁が三食つけられるようになる日が来ると嬉しいです。日本の食文化である味噌汁を未来に残していけたらいいなぁと日々思っています。
最後まで読んで下さいまして、有難うございました。