酵素の考え方|献立作成時に無視されている現代の栄養学

酵素の考え方|献立作成時に無視されている現代の栄養学

皆さまこんにちは。以前のお話で何度か酵素について少し触れました。「酵素=身体に必要なもの」というイメージが現在では一般的に浸透していて積極的に酵素を摂取しようと努力されている方も多く見受けられます。”消化酵素”と”代謝酵素”という働きが私たちの身体に作用しているのですが、でも私にはそれがどう身体に良い影響をもたらすのかを答えることはできても「なぜそう作用されるか」という理由まではうまく答えられる自信はありませんでした。実際にまだ研究途上のものであり今もなお研究者の方々が解明に努力をされています。その中でも論文で発表されたり技術の進歩によって明らかになってきていることもあり、またそれを裏付けるかのように身体に変化を感じている人が身近にいることが信じたいという思いに繋がっています。そう思う背景には生化学の授業で酵素を学ぶのに病院の献立作成業務には関りが無いという現実からでした。体質や個人差がありますが、あくまでも考え方のひとつとしてお話を聞いて頂けると嬉しいです。

目次

生命体の寿命の尽きるとき説

「酵素は生体触媒である」とお話しました。科学的にいえば「生物の細胞内で作られるタンパク質の触媒の総称」ということになります。
英語では”enzyme(エンザイム)”で、”in yeast”つまり”酵母の中”という意味であり(ギリシア語の “εν ζυμη”(en zymi)に由来)、まさに酵母の素なのです。「これは酵母をすりつぶしてもなお発酵は続き、その発酵は酵母の中にある物質(酵素)により行われていることが1896年ブフナーによって証明されたことによる。その後、酵素の研究はそのまま生命活動の本質の解明に繋がり、今日に至っている。」と教科書に説明があるように生命活動の本質なのです。

人間にとって酵素は大きく2種類に分けられます。”体内酵素”と”食物酵素”です。食物酵素は”対外酵素”とも言い換えることができます。あくまでも仮説ですが、「生物が一生の間に作ることができる酵素の総量は決まっている」と酵素研究の第一人者であるアメリカの臨床医師エドワード・ハウエル博士が唱えているのですがこの一定量の体内酵素を”潜在酵素”と呼んでいて、これを使い切った時がその生命体の寿命の尽きるときというのです。酵素の量と活性度が健康状態に大きく影響するのです。

自然界で見る摂理|エサを加熱しないからわかること

Cheetah Savannah Lie Kenya  - djsudermann / Pixabay
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ライオンやトラなどの肉食動物が食べるエサは草食動物という「肉」です。しかし肉ばかりを欲しがっているのではなくこの草食動物の内臓部を真っ先に食べています。何故かと言うと肉食動物には植物を分解する酵素を持っていません。でも植物(酵素)を必要としている。そこで内臓部から真っ先に食べるというのです。植物を餌にしている草食動物の内臓には植物からの酵素がたっぷりと含まれているのですね。エスキモーのように草木の育たない極寒の地で暮らす人々もアザラシを捕らえると真っ先に内臓から食べます。ウサギは自分の一度目の柔らかい糞を食べると言います。そこには未消化のエサとともに酵素を再吸収しているためです。

野生の動物は加熱して食べるということはしませんよね。ペットにも生活習慣病が増えていますがその原因がペットフードだけのエサによるものではないかとも一部では言われています。もちろん獣医学の発展により人間と同じようにペットも寿命が延びています。それと比例してのことかもしれませんが良いことも悪いことも、人間に起きていることがペットにも起きているのです。必要な栄養素がペットフードにもバランスよく含まれているといいますがそれはあくまでも酵素を無視した現代の栄養学に基づいてのことです。
人間の食事そのものがペットフードと当てはまります。私が病院や施設で献立作成をしていた時に酵素について考えることは一切なかったと前回の記事でお話しました。現代の栄養学の骨子はいわゆる「食事バランスガイド」に記載されている「エネルギーのもととなるもの」「筋肉や血をつくるもの」「体の調子を整えるもの」です。その基準値に満たされてさえいればフレッシュなものでなくても加工品でも、加熱または消毒にて食中毒の原因菌となる微生物やウイルスを殺してから料理として提供できれば良いのです。
第三者に提供する食物は食中毒防止の観点から安全衛生が責務です。作って提供するまでに時間が経過するような仕出し弁当や集団給食などの場合、また加工して保存期間を長くして販売するものでも食中毒事故を起こさないことを最優先に考えると結果的には加熱または消毒にて菌を殺します。すなわち当然酵素も殺すことになります。自然界では加熱も消毒もありません。

病院の献立作成でもやはり酵素を考えた食事が必要ではと思わせてくれている理由が、以前の記事でもご紹介したこちらの内容です。

酵素の効果(研究結果)

慢性腎臓病のための成分ガイド【酵素編】 (wellunderstood-ckd.com)

そして、酵素について自然の摂理が教えてくれているというお話を著書にてご紹介してくれているのがこちらです。ミリオンセラーにもなり当時大変な話題となりました。初版から17年経ちますが今でも私の指南書となっております。

病気にならない生き方

病気にならない生き方 | サンマーク出版 (sunmark.co.jp)

体内酵素と食物酵素

人間に必要な酵素は5000種と言われています。なぜ5000種もの酵素が必要なのかというと一つの作用に一つの酵素しか働かないからです。しかし人間の身体というのは実に無駄なく効率よく出来ています。そこである仮説が立てられているのですが、5000種もの酵素を一から作り上げたり摂り入れるような無駄なことではなく、必要に応じて特定の酵素に作り替えられる以前の、どのような酵素にもなれる可能性を持った原型となる酵素があるのではと、先ほどご紹介した著者である、胃腸内視鏡分野の世界的権威の外科医の先生が仮説を唱えていました。それを”ミラクル・エンザイム”と名付けていて、この原型が先に作られ、その人に必要な特定の酵素が作られていくのではないかと唱えています。
消化吸収や新陳代謝、また体内に入った毒素を分解し解毒するのに酵素が必要です。例えばお酒を飲んだ時にアルコール分解酵素が大量に必要になります。そこで原型の酵素を多く持っている人はアルコール分解に必要な酵素がたくさん作られ、その分アルコールを分解し解毒するのが早いのではないかと言われています。
この仮説はエドワード・ハウエル博士の言う「潜在酵素の尽きるときが寿命の尽きるとき」に近い仮説です。酵素が大量に必要な場面が多くあっても、いかに持って生まれた潜在酵素を浪費せずに食物から取り入れた酵素で補充できるかで、原型となる酵素がその時に必要な酵素として力を発揮できるか。現代ではさらに少しずつ酵素について解明されつつある中で食物酵素がそのまま体内に入って力を発揮することは無いと解っていますので体内酵素と食物酵素のそれぞれの必要性が分かる気がします。

体内酵素を浪費する原因

体内酵素は加齢に伴い減少していくと言われていますが日々体内酵素を消費していると考えた方が私にはイメージしやすいです。その中でも大量に浪費する行為とは、酒、タバコ、ストレス、大食、添加物、薬、毒素、紫外線、レントゲン、電磁波を浴びた時に多量にできる活性酸素(フリーラジカル)などの解毒に使われる時です。その人の生まれ持って決まっている酵素量を浪費しないよう酒やタバコ、ストレス、生活習慣、食習慣を見直して少しでも節約しつつ、食べ物の持つ食物酵素を少しでも多く摂り入れる。そのように補充し続けながら消費を抑えられれば一生で決まっている量の減少を最小限に留めることができ、結果的に細く長く保つことができるのではないでしょうか。

食物酵素を体内に摂り入れて補う

今日では近代の技術の進歩により酵素の実体や機能の詳細が判明したため、発酵食品であっても生物を使わずに酵素自体を作用させて製造することもあり、酵素を使って食品の性質を意図したように変化させることが可能になっています。これらの酵素は生物由来の天然物とされるため食品関連法規で求められる原材料表示では省略されていることが多いのです。また、発酵食品を除く加工食品では、酵素は加工助剤として利用するため製造工程中に失活または除去されて完成した食品中には存在しません。したがってこれらの酵素は食品添加物とは異なる扱いになっているのです。
また酵素の利用は食品製造だけにとどまらず化学工業製品の製造や日用品の機能向上、医療など広い分野に応用されています。洗剤のCMでも「酵素パワー」などと謳っている商品もありますのでご存知の方も多いかと思います。また超分子化合物によって人工酵素を作り出す研究も成果を上げているそうです。

人間の身体ではどうなのでしょう。古来から人類は発酵という形で酵素を利用してきました。本来酵素を作ることができるのは生命体のみです。発酵食物のように酵素を多く含む食物を人工的に作ることは出来ますがその酵素を作り出しているのは微生物です。つまり微生物が酵素を作りやすい環境を整えることが大切なのですね。発酵食品のように製造過程において微生物を増やし酵素を蓄え、それを人間が微生物を摂取することで腸内にて酵素を増やしてもらうことが可能になる。
(正確には体内で酵素が増えるのですがこれは体内酵素とは呼ばず、内なる外となるため対外酵素になるのです)

善玉菌が棲みついていることで酵素を3000種も作ってくれる。仮説の”一生で決まっている量”を浪費しなくて済むという訳なのです。食物酵素はいくら酵素が豊富な食べ物でも酵素がそのままの形で吸収され人間の体内で働くわけではないと言われています。大根や山芋のように口や胃で働くものもありますがそれはほんの一部で、ほとんどの酵素が消化の過程で分解されペプチドやアミノ酸として腸から吸収されてしまうのです。でも、かといってこれで諦める必要はないと新谷先生は本の中でお話されています。良い胃腸には共通点があり、酵素をたくさん含むフレッシュな食物を多く摂っていたことだったと言うのです。これは単に外部から酵素を摂り入れるだけでなく、酵素を生み出してくれている腸内細菌が活発に働くような腸内環境を作るのにも役立っていたというのです。

腸内の微生物が酵素を増やしてくれている

植物性乳酸菌を生かして漬けた無添加の野沢菜漬け

人間に必要な酵素は5000種で、そのうち体内で作られる酵素(正確には微生物が作ってくれる対外酵素)は3000種と言われています。腸内細菌が食物を材料に作り出しているのです。しかしどのように生成されているのかは明らかになっていません。

抗がん剤は大量の活性酸素を生み出します。この猛毒を解毒させようと酵素が働きます。そうすると消化酵素が不足し吐き気をもよおし、代謝酵素が不足することで髪の毛が抜け爪が割れるのです。
また、活性酸素で微生物が死んでしまいます。腸内の絨毛というところから白血球やNK細胞と言われる免疫細胞が大量に活動します。この時に活動した証として活性酸素が作り出されるのですが、この活性酸素で微生物が死んでしまうというのです。ストレスやウイルスの侵入などで免疫系が働いてくれたあとどれだけ回復できるかは残された酵素がどれだけ他の作用に働いてくれているかなのです。そして微生物が死んでしまっても元が多ければ残った微生物も踏ん張ってくれます。そこで微生物を補充しまた増やしていって酵素を作ってもらうのです。添加物の入っていない、天然の発酵食品には善玉菌と言われる微生物がいます。その微生物を発酵食品として摂取すること、そしてその微生物のエサとなる食物繊維やオリゴ糖も同時に摂取することで腸内環境が善玉優位に整うようになります。しかしその環境は補充がないと元に戻ってしまうと言われていますので、毎日補充して維持することが有効なのです。

腸内環境は持って生まれた個人差があるが、変えることができる

身土不二という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。仏教用語で「身」(今までの行為の結果=正報)と、「土」(身がよりどころにしている環境=依報)は切り離せない、という意味です。また日本では食養運動のスローガンとして人間の身体と土地は切り離せない関係にあるということ、その土地でその季節にとれたものを食べるのが健康に良いという考え方で、明治時代に石塚左玄らが唱えました。
酵素を持つ微生物の中には、生海苔を消化する酵素は日本人にしか無いと言われています(加熱した海苔は外国の方でも消化できます)。また逆に日本人は乳糖を分解する酵素を持っていない人も多いため牛乳を飲んで下痢をする人もいます。このようにはるか昔からのその土地で食べてきた先祖のDNAを受け継ぎ、持ち合わせる酵素が異なる場合があります。
また腸内環境は3歳までに決まると言われていますがそれは出生時の産道の状態や出生後の母乳などで母親から引き継がれます。ヒトはオリゴ糖を分解する消化酵素を持っていません。乳酸菌やビフィズス菌、酪酸菌などの善玉菌を腸内で育成させることで腸内環境を整えることができるのです。乳児が消化できないオリゴ糖が母乳に存在する理由は、乳児の腸内フローラを育成させるためなのです。
そしてこの腸内環境を自分で選んで食べる食べ物や生活環境で決めることができます。人間にとって有益な作用をもたらしてくれる菌を善玉菌、腐敗や食中毒の原因菌を悪玉菌と呼び分けていますがそのどちらでもない中間菌も存在します。善玉:悪玉:中間菌=2:1:7が理想と言われています。

酵素が働く条件|発熱の意味

酵素は最適pHや最適温度、基質の濃度、酵素の濃度などの条件下で酵素が働くと言われています。たとえば温度帯ですが、体温35℃台と低体温の人はがんになりやすいのは酵素が活発でないためと言われています。体温が高い方が活発になるので、発熱というのはこの時に免疫機能を高めて体内で戦ってくれているのです。酵素は48℃から破壊を起こし、115℃で完全に壊れてしまいます。先ほども加熱処理をすると酵素が壊れるとお話したように、生野菜や生果物などフレッシュな状態で食物酵素を摂り入れることが大切です。
また発酵食品を作る際も、漬物を作る際の温度管理、また味噌や醤油、お酒造りのように麹菌や酵母を発酵させる際にも温度管理がとても重要と言われています。発酵食品について調べれば調べるほど、無添加の本物の発酵食品が続いていることに歴史と奥深さを伺い知ることができました。無添加の漬物や甘酒を店頭で見ると思わず買ってしまいますが私には貴重品が並んでいるように見えます。

無添加の発酵漬物を作り続けているご主人の若々しさ

消化酵素と代謝酵素がよく働くことで摂取した食物を細かく分解してくれたり消化吸収に力を発揮したり何かの栄養素の働きを助けてくれたりなど、酵素には様々な働きがあります。その効果により血液サラサラ、コレステロール排出、毒素排出、疲労回復、免疫力アップ、美容や美肌に効果がある、若々しくいられる、など、様々な効果が期待されるというのは酵素の量と活性度によるのですね。

以前の記事でお話しましたが、無添加の乳酸発酵ぬか漬けを毎日食べ続けて半年になる知り合いが、お酒を飲んでも翌日の体調が以前に比べてすごく良くなったと言っています。そのぬか漬けを作る漬物屋のご主人も85歳ですが本当に若々しく、冬でも半袖で過ごされています。お店まで毎日電車で通勤されているそうですがコートは重くて邪魔になると仰っていました。健康診断の結果は血圧も血糖値もコレステロール値も正常だそうです。
看板商品である乳酸発酵白菜ぬか漬けは、そのご主人が若い頃農業をされてきて漬物屋に転換する際、年間を通して生産できる野菜で食物繊維が豊富なものは何かを勉強されて白菜でぬか漬けにしようと決めたとのことです。
経口で酵素を摂取しても消化されるので効能が得られる科学的根拠はないという意見もあります。しかし私は食物酵素を毎日摂取し、食物繊維も同時に摂取して善玉菌を毎日補充することは意味があるとこのご主人に出会えたことで信じたいと思えるようになりました。

酵素を大量消費してしまうような行為を日常生活で改められたら少しでも健康で長く生きられるのではないかと思います。それでも大量に消費してしまうような出来事もあるでしょう。そんな時に備えて酵素や微生物を腸内にたっぷりと持ち合わせていたらアクシデントが起きても乗り切れるかもしれません。それでもいつかその酵素が尽きた時がきっと私の寿命なのです。なるべく病気にならない生活を心がけたいですがそれが目的ではなく、人生を楽しく過ごすための土台作りになったら嬉しいです。

さいごに|栄養学はまだまだ未完成の分野

こんなことを言ってしまっては本末転倒ですが、でも健康でいたいと思えば様々な情報を信じたくなります。しかし煽っても煽られてもいけない。それにはよく勉強して調べてみること、自分の身体で実践してみることはとても大切なことだと思っています。今回ご紹介した著書について批判も多くあるようですがどんな分野も何が正解なのか分からないことは多くあります。
先ほども腸内環境に個人差があるとお話したように体質も嗜好も人それぞれです。誰かが何かが良いと言えばそれが全てではなく何かが悪いと言えば全て悪い訳ではありません。
(確かに、本の中に書かれている牛乳のお話については日本酪農乳業協会が公開質問状を出すまでに至った背景も分かります。何故かと言うと不安にかられた消費者が著者ではなく乳業協会の方にお問い合わせがいくという事態にまで陥ったそうなので影響力は相当だったのかと推察されます)
お医者さんにもそれぞれ意見や持論を持ち合わせていてまた栄養士も同じです。私はこれまで厚生労働省の指標をもとに栄養学も衛生学も病院や高齢者施設内で忠実に実践してきました。しかしその指標通り実行できさえすれば良いのかという思いとずっと自問自答してきたのです。指標を批判するのではないのですが、例えば食物繊維の目標値が変更になっていますがその根拠は世界に比べて日本人の摂取量が低いため引き上げた、しかし現実的に達成できそうな量ではないためその中間値を今回の目標値として引き上げているのです。他の栄養素も同様な記載や補足を度々見かけます。
先ほど身土不二のお話をしましたが、世界の摂取量と日本人の摂取量を比較することにまず私は疑問を感じます。その土地による遺伝的な体質も関係していると私は思いますので日本人のための食事摂取基準であるならば日本人のエビデンスを掲載した上で目標値を定めてほしいと思います。だから忠実に指標に従いながらも自問自答も必要ではと感じているのです。

シンプルに、生命体に備わった酵素の力を信じたい。そして日本の発酵文化を大切に、共生している微生物たちを労わり、自分が何を選んで食べているかで身体にどう変化が起きるのかをこれからも知りたい、試行錯誤を続けたいと思いました。